
第1話「情弱咆哮」
「情報商材を売ってやる!」
ライチの大いなる決意。
その決意から、3か月が経過した。
「情報商材が売れねぇ!」
ライチは、頭を抱えていた。
「毎日毎日、朝から晩まで努力しているのに、なんでだぁぁぁぁ」
星の数ほど存在する、”●●で稼げます系インフルエンサー”
彼らのメディアを目をひん剝いて監視していると、共通するパターンを発見した
■ブログやWe tubeやTwittelで発信➜LIMEやメルマガへ誘導➜バカ高い情報商材を買わせる。
彼らの王道手法であろうこの手口を、ライチは徹底的に真似てみた。
晴れて ”異世界で稼げます系インフルエンサー” となったライチ。
”異世界で稼げます” というコンセプトで、ブログ・We tube・Twittelを運営してみた。
長い文章を書きブログに投稿、一生懸命編集した動画をWe Tubeで公開、(顔に自信がないので顔出しなし)それをTwittelで告知しつづける日々……。
しかし、ブログ・We tube・Twittelにアクセスがまったく集まらない。ことごとく見てもらえないのだ。
「なぜだ⁉異世界で稼ぐ方法を知りたい人は、いくらでもいるはずだ。なのに、なぜ……」
苦悶の表情を浮かべるライチ。
まず、ブログ・We tube・Twittelにアクセスが集まらないと、LIME・メルマガに誘導できない。当然その先にある情報商材が売れることはない。
「ルキさんとのチャットに、ヒントがあるかもしれない……」
げんなりした顔のライチは、ルキとのチャット履歴を開いた。
――ライチとルキは、ARレンズを通した視界に表示される情報を共有するために、一度 同期をした。
その履歴の相手とは、お互いが許可すればメッセージ送受信が可能。
そして3か月間、ライチとルキはお互いに情報交換をしていたのだ。
――ルキは、ライチの様に ”異世界で稼ぐ情報商材” を売るか否かは わからないが、異世界で稼ぐための情報収集をしつつ、実践している。
だが、いろんな異世界に行っても上手く稼げていないらしい。
ひたすら失敗を重ねて、試行錯誤しているとのことだ。
……ライチは、締まりのない表情を浮かべている。
女の子と連絡を取り合うなんて、生まれて初めての体験だ。
男と女が連絡を取り合うなんて、都市伝説だと思っていたのだ。
だが、俺は女の子と連絡を取っている!
あれ、俺ってもはや、ルキさんの彼氏の座に世界で一番近い男……。
情報商材業界に身を投じて3か月。
それなりにこの業界の事がわかってきた。
星の数ほどのインフルエンサー達がいるが、その中でも有名な人物となると数十人ほどしかいない。
彼らのメディアは、YoutubeもTwittelもフォロワー数が多い。
つまり、それだけ良い発信内容……ということなのか?
俺には、発信内容の良し悪しは判別がつかない。
しかし、フォロワー数が多いという事実には、相応の理由があるはずだ。
……フォロワー数が多いということは、発信内容が良いんだろう。たぶん。
そんな事を考えながら、ネットの海を彷徨っていた。
――ライチの思考に、電流走る。
「あなたの人生ストーリーは、世界唯一の資産!」と声高に語るインフルエンサーを発見したからだ。
We Tubeを見ると納得できそうな理論をわかりやすく語っている
「あなたの人生ストーリーは、絶対にライバルがいない独占市場!」
「時間と共に価値を増していく、無形の資産!」
「Ubel Eatsは誰でも楽に月収100万。なのに大多数が続かないのは、人生ストーリーがないからだ!」
そうか。
俺の発信には、”人生ストーリー” が足りなかったんだ!
更に、もう1人のインフルエンサーにも目を付けた。
「古今東西あらゆる理論を学びつくし、 ”統一理論” として融合!」
「AIで価値創出は無限大!このメソッドを公開する事に恐怖すら感じる。まさに ”人類の宝” 」「人々を ”あなた中毒” にさせてしまえば、ビジネスは一生安泰!」
そうか。
この ”AI×統一理論” を学ぶことは、世界を掌握するに等しい!……とまではいかずとも、少なくとも それなりのコアなリピーターを獲得して、それなりに稼ぐことは容易だろう!
この人たちは、実際に情報商材業界で長年生き残っている。
本当に稼げているんだ。
つまり、この人達から稼ぐ方法を学べば、俺も稼げる!
この人たちの情報商材を買って、ライバルに差をつける!
さらに3か月後。
ライチとルキは久々に対面で情報交換をすることになった。
南国リゾートっぽい異世界、海辺のカフェ。
その屋外テラスに、ライチはいた。
南国リゾートで、女の子と待ち合わせ……。
傍から見たら、【恋人同士】に見えるだろう。
むふふ……。
約束の時刻より30分前に来ていたライチは、締まりの無い笑顔を浮かべる。
ルキさんはTHE・ギャルな外見で、第一印象は正直良くなかった。
偏見だが、ギャルは――大声でゲラゲラ笑いながらテーブルをばんばん叩くイメージがあった。
だが、ルキさんは、たどたどしく話す俺の言葉を、真剣に聞いてくれる。
――俺を真っすぐに見つめるその瞳が、俺を痺れさせる――
ルキさんは、約束の時刻の5分前に来た。
「久しぶり…‥目にクマできてるよ?」
「朝から晩まで作業をしてて、寝不足なんです」
ルキさんは、ネット上で情報収集の方法について話した。
特に、”異世界レビューサイト” は有用な情報源と語る。
だが、異世界レビューサイトに情報が載っているという事は、”異世界で稼ぐ業界” の多くのライバルたちにも認知されているという事。
(幸か不幸か、インターネットがある異世界同士は、インターネットも同期されていて、お互いの異世界の情報は共有されている)
なので、レビューサイトを参考にしつつも――結局は自分で泥臭くあちこちの異世界に行き、現地人に話を聞きまくって手探りで情報を集めていく。
それが遠回りの様で、最短距離らしい。
しかし、試行錯誤を繰り返しても、まだ上手く稼げていないようだ。
だからルキさんも、異世界レビューサイトなどを運営して、広告収入を得る……という方法も視野に入れているらしい。
「……昔、なんとなく小説家になりたくて、文章の書き方は学んだけど……肝心の書きたいテーマがなかったんだよね。
んで、高卒以降、ぶらぶら遊び歩いてた。
だけど、サイトやブログ運営するなら、文章の書き方を活かせると思う。」
”ぶらぶら遊び歩いてた” と話すとき、ルキさんの表情に、後悔の念を感じた。
「……で、ライチは?」
「情報商材を買いました……50万円近く」
ルキの表情が、強張った。
虚無感にあふれた瞳でライチを見据える。
ルキも、”ブログ・サイトで稼げます系” のインフルエンサー達の発信にも目を通しており、その手口をそれなりに理解していた。
「えっと……つまり『 ”情報商材を売って稼ぐ方法” を教える情報商材』に50万円使ったってこと?」
「はい。最初は数万円の『どんなジャンルの情報商材でも売れます!稼げます!』の情報商材を買ったんです。
だけど、後からもっと高い情報商材もセールスされて ”大金を稼ぐための先行投資だ” と言われて、気が付いたら50万円近く……」
50万円。途方もない大金。
「……それで、成果は……?」
「実践したんですが……一円も稼げてません」
ルキは、ぽかーんとした表情で、口を開いて虚空を見つめる。
ルキの表情を見て、困惑するライチ。
「あ……ああ……」
寝不足のライチの混沌とした脳内で、インフルエンサー達への怒りが形成されていく。
「…… ”人生ストーリーで独占市場” だぁ?」
ライチの中で、変なスイッチが入った。
「俺の人生なんて、誰も興味ねえよ!芸能人じゃねえんだから!事実を時系列でまとめて感情を加えたストーリー仕立てにした方が脳が覚えやすい。したがってストーリー仕立てにすれば自分に都合の良い教育をしやすいってだけで、そもそもストーリー自体誰も聞いてくんねえよ!」
いつもの2倍速くらいのスピードで、ほぼ息継ぎなしでまくしたてるライチ。
「あいつらは既存の影響力があるが、俺は影響力を得るとこから始めないといけない。それが最重要、それを最も強調すべきなのに!アリバイ的にさらっと触れてそれ以上は強調しない。肝心要のそこは誰もロクに教えねーんだよな。まあ、そこが一番難しいし豪運も必要、再現性がめっちゃ低いから、初っ端から躓いてるのを自覚されたら、継続的に金払ってくれねーもんなァ!
”仮に僕が無名で(既存の影響力を使わず)始めても、数か月で今と同じ成果を出せる” だぁ!?
実際やってみたことないくせにぃ!まぁ極短期的な需要のある内容を発信しまくって一瞬だけの売り上げ出して「ほらね」とか 言うんだろがぁぁぁぁ!
Ubel Eats月収100万なんてトッププレイヤーが1ヶ月間無休で計400時間働いて叩き出した瞬間的な最高記録だろーが!ライスワーカーの目的はストーリーじゃなくて労働負荷に見合った報酬ゥ!ストーリーじゃ腹は膨れねぇ!生きる金の為に必死で命削ってんだよ!
AIに文章生成させろと言われても、その良し悪しを見抜いて修正依頼するには、自分自身が長年文章スキルを磨かなけりゃできない!AIに稼ぐためのアイデア沢山出してもらっても、その良し悪しや自分との適性を見抜いて行動するには、長年マーケティングスキルを磨かなけりゃできない。それを縦長のセールスレターにしっかり書いとけよおおおお」
ほぼ息継ぎなしでまくしたてた後、ぜえぜえと呼吸を整えようとするライチ。
――ルキは、表情を変えない。しかし――
”うっざ……。テキトーに肯定してあげて、『お互い頑張ろう。じゃあね』で縁、切るか”
そんなことを考えながら、社交辞令MAXの笑顔を浮かべながら、ライチに顔を向ける。
「あ……あぁ……」
ライチの声が、震えている。
「ごめーん!」
平謝り。
「悪気は……あったんだ!君の不快感を認識しながらも!気に留めず!負のエネルギーをぶつけてしまった!悪気が理性に勝ってしまっていた!申し訳ないぃ!」
頭を下げてテーブルに擦り付けながら、渾身の平謝り。
「………………………………」
社交辞令MAXの笑顔から、呆れた表情へと変わるルキ。
「…………うん、反省してね」
ライチは、頭をテーブルに擦り付けながら、自戒していた。
”自分がされて嫌なことは、他人にしない(自己防衛は例外)”
冴えない人生を漠然と生きてきたが、それだけは心に決めていた。
根本まで腐った人間関係を、これまでの人生で幾度も見てきた。
だからこそ、他人とできるだけ関わらず、1人でいることが多くなった。
しかし、ルキさんと会う予定が入った時から今まで、人生に充実感を感じていた。
なのに、ルキさんの前で、負のエネルギーを発散して当たってしまった。
”自己肯定感が低い人間は、他者を精神的に攻撃して優位に立ち、自己肯定感を回復しようとする”
そういう話を、We Tubeで見たことがある。
ライチは、自戒していた。
自己肯定感の低さは自覚していたが、それを他人にぶつけるような人間にはなりたくなかった。そういう人間を軽蔑していた。
そう自戒していた、ハズだった。
なのに、ルキさんの前で、負のエネルギーを発散して当たってしまった。
話を聞いてくれる人が現れたから、ふとタガが外れて、感情を発散してしまった……。
「……いや、もういいって。反省は伝わったから……」
……情けない。女の子にここまで気を遣わせて。俺は……
「……集客が、一番 難しいよね」
ルキさんが、俺が自然と頭を上げる様に気を遣っている。
これ以上、頭を下げ続けるのは、更にルキさんに気を遣わせてしまう。俺の自己満足にこれ以上 付き合わせてはならない。
ライチは、緊張した面持ちでゆっくりと顔を上げる。
――ルキは、神妙な面持ちでストローに口をつけ、オレンジジュースを飲んでいる。
ライチは、申し訳なさを感じつつ慎重に口を開く。
「…………はい。集客段階で躓く大多数の人間は、その後工程である教育と販売を情報商材で教わっても、それを活かす機会がありません。
にも拘わらず情報商材屋は、稼げてない購入者にさらに情報商材をセールスして利益を得るんです。
ごく少数の実績を出した者を引き合いに出して『ウチの情報商材購入者はみんな稼いでます!』みたいに宣伝するが、大多数の稼げてない購入者には触れない」
ルキは、合点が行った――という表情を浮かべる。
「私が行った異世界でも――クオリティに大差ないAとBの商品があって、なぜかAだけが飛ぶように売れる……ってパターンを何度も見てきたわ。
それも、Aが先に販売して先に認知された。影響力を持った……という事なのね」
「有名インフルエンサーが、ブログやYoutubeやTwittelなど どんなメディアを運営しても軌道に乗るのは、既存の影響力を利用しているから。
彼らは、既存の影響力があるから、集客が至極スムーズにできるし、その後工程である教育と販売も至極スムーズにできる。
結果、情報商材もバンバン売れるんです。」
「…………」
ルキさんは、無言で思考を巡らせている様だ。ルキさんの思考を、ぶった切ってはならない。
「……あ、気を遣わせてごめんね。有名インフルエンサーとは、そもそもの土俵がまるで違うのね。
例えば……えーと、
100回勝ち抜かないと優勝できないトーナメントがあるとして……、
99回戦い抜いてズタボロのルーキーを、超シード枠の有名インフルエンサーが万全の状態で叩きのめす……。
そんなイメージが浮かんだわ」
ライチは、頷いて言葉を続ける。
「だから仮に、彼らと同等のスキルを身に着けることができた としても……
既存の影響力がないなら、彼らと同等に稼ぐことは不可能。
いや、下手したら1円も利益を出せないかもしれない。」
「私は お金を情報商材に使わずに、インフルエンサー達の無料情報を見て 数千円の書籍をたくさん買って、戦略実行の資金に使ってきたわ。
偶然ながら、それが正解だったのかも。
情報商材界の闇なんて、今 ライチが聞かせてくれるまで知らなかったから」
賢明な判断をしたルキさんは ”偶然ながら” といって自身を上げることをせず、俺を相対的に落とすことを回避している。
俺のバカっぷりを自然とフォローしてくれている。
ルキさんは、聡明な女の子だ――。
ライチは、重苦しい口を開く。
「さっき言った50万円のうち、30万円支払った情報商材……。
半年間の起業家コミュニティの期間が、あと4カ月残ってるんです。
そこで、リアルセミナーに行って、情報収集してきます」
100人近くの会員がその所属するコミュニティでは、一か月に一回ペースで東京・大阪といった都市で会員限定のリアルセミナーを開催している。
ライチはコミュ障なので、第一回リアルセミナーには足を運ばず配信映像のみを見ていた。
しかし、実際に足を運んでみて、他の会員達と直に話してみよう。
このコミュニティでは、普段の、ネット上の情報交換は会員限定のオンラインサロン内で行われている。
ライチは、ネット上では饒舌なので、他会員とそれなりに関係を築いていた。
吹けば飛ぶような極めて浅く軽い関係だが、情報交換はそこそこできている。
「投資で稼げます!」で稼ごうとする人もいれば、
「ブログで稼げます!」で稼ごうとする人もいて、
「We Tubeで稼げます!」で稼ごうとする人もいる。
……そして、俺と同じく「異世界で稼げます!」で稼ごうとする人もいる。俺が把握しているだけで20人ほど。
彼らと直に情報交換しよう。
成功談は話せないが、失敗談なら話せる。
他人の成功談はもちろん、他人の失敗談も、同じ轍を踏まないためにも有益な情報なのだ。
「ゼロから影響力を得るには、どうすべきなのか?……それを、探ってきます」
ライチの面構えが違う。
それは、ルキへの無礼に対する贖罪の意識……。
いや、それもあるが……。
一番の理由は、違う。
”惚れた女の力になりたい。頼れる男になりたい”
その一心だった。
たとえ その想いが、実らなかったとしても。

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