
第4話
「拡がる海を、赤く染める」
”金脈を嗅ぎつける能力”
有名インフルエンサー達は、この能力が極めて高い。
すなわち、時代の流れを読み、大きな波を察知する嗅覚。
その波にいち早く乗り、既存の影響力をフルに使い、その分野の専門家を名乗る。
その波が弱まってきたら、次の波を見つけて飛び乗る。
それを繰り返し、有名インフルエンサー達は自身の影響力をどんどん強化していくのだ。
有名インフルエンサー達の発信内容は、時代の波に乗るために二転三転する。
「AIが生成した文章には、人間だけが持つ ”魂” が乗らない。人間の書いた文章の価値は天井知らずに上がっていく」
などとAI生成記事を全否定して、15万円を超える超高額情報商材を販売していた とある有名インフルエンサーが、
しばらくしたら
「AIは敵ではなく、あなたの記事作成を助けてくれる味方!相棒!分身!」
などと主張を180° 変えて、同一の情報商材を販売したことも、記憶に新しい。
全く同じ情報商材を、真逆の切り口から販売する そのスキルと図太さには、感服させられる。
有名インフルエンサー達は――
”購入者が稼げる” 情報商材を販売するプロではない。
”自分自身が稼げる” 情報商材を販売するプロなのだ。
――そして、今 大きな波となっている市場――
『異世界で稼ぐ』
この大きな波を、有名インフルエンサー達が見逃すはずがなかった!
有名インフルエンサー達は、既にその市場に参入していて、『異世界で稼ぐ』の専門家を名乗っていた!!
前述の有名インフルエンサーは、現在、前述の15万円超の情報商材を
「すべての異世界に共通する絶対原則を知り、
永久に稼ぎ続ける為の ”異世界統一ライティング” を伝授!」
などと、まったく別の切り口から販売している。
……改めて、心底感服させられる。
また、
「生涯 稼ぎ続けるための ”人生ストーリー” の創り方を教えます」
と、”人生ストーリーの専門家” というメイン軸は崩さず、サブ軸として ”異世界で稼ぐ方法を教える” の情報を発信する者もいる。
これも、他の有名インフルエンサー達に対する差別化戦略だろう。
――情報商材を買うよりも……情報商材をセールスする手法を実際に体感して、脳に汗をかいてその手法を分析する方が、圧倒的に学びが深く、濃い。
そこには、情報商材では決して語られない、有名インフルエンサー達のドス黒い ”裏の叡智” が結集されているのだから。
――少し考えれば、理解できたはずだ。
以前、抱いた大いなる謎。
「なぜだ⁉異世界で稼ぐ方法を知りたい人は、いくらでもいるはずだ。
なのに、なぜ……集客できない!」
その答えは――。
『有名インフルエンサー達が、”異世界で稼ぐ方法を知りたい人” を、根こそぎ かっさらっていたから』
高額コミュニティの運営者兼メンターである、胡散臭いおっさ……ナイスミドルが、”いくらでも使いまわせるアドバイス” に留めたのも、自分のライバルが増えるのを防ぐため。
……そう、胡散臭いおっさんは自分のメディアで、異世界で稼ぐ方法を知りたい層を集客して、LIMEやメルマガに登録させ、『異世界で稼ぐための最強メソッド』を販売していた!
さらに言うなら、胡散臭いおっさんは、
「”異世界で稼ぐ” の実践結果を報告してくれれば、アドバイスできる」
と、高額コミュニティ会員からフィードバック情報を得ようとしていた。
その眼差しは、会員の為を思って、誠実そのもの――な雰囲気を醸し出していた。
すっかり吞まれていた。
フィードバックをしなければ!……… という心境にさせられていた。
”誠実さを短時間で演出する”
その手法も、有名インフルエンサーに必要とされる能力なのかもしれない。
つまり、『”異世界で稼げます!” で稼ぐ』を目指す、既存の影響力が無い俺は、有名インフルエンサー達に太刀打ちできない。
そして、『異世界で稼ぐ』を目指すルキさんも、”有名インフルエンサー達の情報商材の購入者達” がライバルとなる。
既存の影響力が無いルキさんも、多数のライバルたちと 鎬を削らねばならない。
巨大な資本を持つ大企業は、インフラを作ったり、製品を大量生産する体制を整えるための先行投資ができる。
だが、巨大な資本を持つ企業と違い、先行投資資金が極めて限られる者達は、選択肢が限られる。
『小資本で始められる・在庫を持たない・利益率が高い』という個人でも可能なビジネス➜インターネットでスモールビジネス……という結論に帰結する。
少し具体化するならば、『インターネットはあるが、●●が無い異世界” に行く➜●●の情報を発信する』といったところか……。
異世界同士のインターネットは同期されているので、デジタルコンテンツは他の異世界にも情報共有が早い。
例えば、超有名作品『寸劇の魚人』は、ネットがある異世界ではどこでも認知されている。
なので、●●はデジタルコンテンツよりも、物理的な製品の方が望ましい。
(異世界転移技術が実用化された後、異世界への配送サービスを開始した業者も複数ある)
一例をあげるなら――寸劇の魚人のグッズなどだ。
寸劇の魚人が知られているなら、コアなファンもいる。
その人たちに向けてメディアを運営、キャラのフィギュアの存在を知ってもらいさえすれば、需要が生まれる。アフィれば 広告収入になる。
それを供給する者が自分以外にいなければ、その異世界での ”寸劇の魚人グッズ供給” においては、自分の独占市場となる。
――と思っていたが、既に企業がその戦略を取っていた。大人気IPは片っ端から扱っている。
そんな状況で、ルキさんは、異世界レビューブログを運営している。
異世界レビューをするブログやサイトは、今や王道コンテンツとして1つのジャンルに確立されている。
異世界レビュー情報の需要は極めて高いが、とうぜんながらそれを供給するライバルも多い。
しかも、ルキさんは後発組だ。
だから、ルキさんは差別化のために 『若いギャルの視点で異世界レビュー』というコンセプトを取った。
・現地のオシャレグッズ
・SNS映えスポット・SNS映え食事
・イケメンはいる?
・コスパは良い?物価はどう?
・清潔?食あたりしない?
・治安だいしょぶそ?
・安上がりな観光プラン
・移住して良さげ?職、見つかる?
……などの情報をギャルらしいノリで、発信している。
運営前にリサーチしてみると、それと同じコンセプトのブログやサイトは現れていなかったらしい。
なので、じわじわとPVが増えてきており、そのまま ”異世界レビュー×ギャル” のポジションを獲る事を狙っている。
We Tubeでも、同じコンセプトで動画として発信している。
(顔出し有りWe Tuberになるか、顔出し無しVTuberとして活動するか悩んだ結果、
”部位Tuber=顔だけVTuber” をしている)
収益源は、”異世界転移アイテム” や、”異世界へ行くときのお役立ちアイテム” 等の紹介。
ルキのメディア経由でそれが売れると、広告収入としてルキの利益になる。
また、ブログにおいてはグーゴルアドセンスは広告の自己主張が強すぎるため、読者の立場になるとウザいので 貼らないらしい。
――異世界転移アイテムは、いずれ人間社会になくてはならないインフラレベルになるだろう。
今後は、あらゆるテクノロジー・あらゆる産業の、絶対不可欠な基盤となるのだ。
異世界転移というテクノロジーは、インターネット以来の大発明だ。
インターネットは ”PC➜携帯電話➜スマホ➜ARグラス➜ARコンタクトレンズ” と、デバイスを替えながら、もはや世界の基盤といえるレベルにで必要不可欠なインフラとなった。
ブロックチェーンや生成AIも、世界に必要不可欠なテクノロジー足り得るが、それらもインターネットという基盤があってこそ価値がある。
だが、異世界転移技術は、インターネットの基盤に支えられないと世界に必要不可欠なテクノロジーとして存在しえないものでは無い。
単独でも価値を発揮できるのだ。
たがらこそ、異世界転移技術はインターネットと同格、人間社会に絶対不可欠な基盤となるだろう。
だからこそ、今から情報を発信しておけば、異世界レビュー系インフルエンサーとして影響力を獲得できる!
――ハズだった。
しかし、すでにギャル系インフルエンサーとして、ブログ・WeTube・Twittelで 影響力を獲得している ”ぎゃうぴ” が、異世界レビューを始めた。
ぎゃうぴは、ライチと同じく、胡散臭いおっさんの高額コミュニティの会員だ。
有名インフルエンサーとまでは言えないが、既にそれなりに影響力がある。
その影響力を駆使して、ルキが獲得しようとするポジションを奪いにかかるだろう。
ぎゃうぴ は、ルキと比較した場合は……相対的に、強者となる。
強者は、後追いであろうと……影響力のゴリ押し戦略で、先駆者を追い抜くことが可能なのだ。
――ライチは、ルキ宛のメッセージを目にも止まらぬ速度で、仮想キーボードに打ち込んでいく。
――――とある異世界。
広大なスケールの荒野に、悠久の時を感じさせる遺跡が数千個も点在している。
それらを眼下に見下ろすほど高い塔の上。
マンゴーシェイクをテーブルに置き、椅子に腰かけ、仮想ディスプレイを睨むルキの姿があった。
「――今さっき、ライチが忠告してくれたのは、この ぎゃうぴ って人か」
ARレンズを通したルキの視界、仮想ディスプレイには、『若いギャルの視点で異世界レビュー』というルキと同じコンセプトのブログ・WeTube・Twittelが表示されている。いずれも、PVやフォロワーはルキよりも5倍~20倍多い。
余談だが……
仮想ディスプレイを睨んでいるルキの視線は、その先にいる男性にも見事に突き刺さり、男性はびっくりしている……
だが、ルキはまったく気づいていない。
傍から見て、ガラが悪いギャルである。
ルキは、考えを巡らす。
ぎゃうぴ は、暗号資産系インフルエンサーとして、中堅レベルだったのだが……
――異世界転移技術が開発されるや否や、異世界同士での共通通貨として 暗号資産への期待が爆発的に高まった。
(現状は 現物のゴールドが共通通貨だが、異世界同士のブロックチェーン技術の互換性調整が完了すれば、圧倒的に利便性が高い暗号資産が 共通通貨となるだろう)
その結果。
”現世の” 暗号資産系インフルエンサー達が……つまり、ぎゃうぴのライバルが激増した。
――さらに、既にインターネットが実用化されている異世界同士での、インターネットの同期が実現。
その結果。
あらゆる異世界のインフルエンサー達が、同じ土俵に放り込まれた。
既に、暗号資産が実用化されている異世界のインフルエンサー達も、だ。
そして、”星の数ほどある異世界の” 暗号資産系インフルエンサー達が……ライバル関係となった。
ぎゃうぴのライバルが、超爆増した。
必然、ぎゃうぴ のフォロワーは微減、メディアのPVは激減していた。
なので、それなりの収益を上げているブログ・We Tubeはそのまま放置、新しいコンセプトを模索していた。
……その時、影響力ゼロから発信を始めて、短期間で好調にフォロワーやPVを伸ばしているルキを発見……。
ルキの 『若いギャルの視点で異世界レビュー』というコンセプトが有望と知り、方向転換した。
異世界レビューのブログ・WeTubeを立ち上げた。Twittelは、告知用にそのまま引き継いだ……。
――というシナリオだろうか?
確認はできないが、充分ありえる。
ぎゃうぴ のメディアのコメント欄を見ると、暗号資産系インフルエンサー時代からのリピーターも少なくない。
彼らが、発信内容を見てくれることで、SEO評価が上がり、より拡散されやすくなる……。
ルキは、両手で頭を抱えながら、ストローでマンゴーシェイクを飲んでいる。
――突如、ルキの両目が見開かれた。
「……マンゴーシェイク、美味っ」
ルキは、地平線に視線を移す。
幾千の遺跡が点在する果てしない荒野……の上空。
遥か遠くの空。
老いた巨大な鳥が太陽に向かって弱々しく飛んでいく姿を、ルキは見つめていた。

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