【第1話:Brave Slave】異世界で勇者(底辺労働者)やってるが、ブラック企業なうえ魔王討伐が禁止な件

第1話
「Brave Slave」

ここは、とある異世界。

どこまでも続く草原。

吹きぬける爽やかな風が、俺の身体を撫でる。

青空を見上げれば、4つの星が浮かんでいる。

白い太陽。

赤い惑星。
青い惑星。
黄色い惑星。

美しい光景だ。

壮大なロマンを感じる。

 

…………………………………………。

やめてくれ。

引き立っちまうだろ!?

勇者という、”最底辺の労働者” の空虚さが。

 

 

――死んだ魚のような目をした数十人の勇者たちが、集結している。

虚無を体現したかの様な表情を、その顔に浮かべている。

無言でうつむいた その顔からは、夢も希望も感じられない。

だだっ広い草原に整列させられている者たち。

短期離職を見越して大量に非正規雇用された勇者たちだ。

 

今日は、この異世界における、俺の ”入社” 初日。

懸念すべき初出勤日だ。新人研修が執り行われている。

物凄い、陰のパワー……いや、負のパワーで満ちあふれた空間。

 

「では、友好を深めるために自己紹介をしましょう!」

進行役である この異世界の ”重役” が、やたら元気に言い放った。

余計なイベント増やすんじゃねーよ。

最前列・左端にいる勇者が指名された。

……あっぶねー。端っこにポジションを取らなくてよかった。

俺の自己紹介は、24番目。奇しくも俺の年齢と同じだ。

 

トップバッターにされた勇者が立ち上がり、自己紹介を始める。

「あ、えーと……モブソ・ノタオーゼと申します。
年齢は22歳です。前職は……同じく勇者でした。
趣味はAヴi……えーと、映画鑑賞です。
……え、あ……よろしくお願いします……」

進行役が、高らかに拍手をする。勇者たちも釣られて まばらな拍手を贈る。

自然と、「名前・年齢・前職・趣味」という、自己紹介テンプレが出来上がった。

その後も、順番通りに、そしてテンプレに従順に自己紹介を始める勇者たち。

誰もが過去を語る。誰も未来を語らない。

時が停滞しているのに、一分一秒ごとに確実に老いていくという、恐ろしい空間だ。

俺の番が来たら……できるだけコンパクトに済ませよう。印象に残らない様にしよう。

いてもいなくても、意識されない存在になれ――

 

……俺の番が来た。

愛想笑いをしろ。噛むな。キョドるな。

印象に残る要素を、極力削ぎ落せ――

「名前はロード・カロウです。
年齢は24歳です。前職も勇者でした。
趣味はWe Tubeを視ることです。
頑張りますのでよろしくお願いします」

…………無事、完了。

”健康の為、筋トレしてる” とか ”身体を動かすのが好き” とか言ってしまうと、キツいポジションを割り当てられるリスクが跳ね上がる。

時給1100円で、極限までコキ使われてしまう。

なので、言わない。

自分の身は、自分で守らなければ。

 

前の異世界では、自己紹介の時にその間違いを犯して、キツいポジションを割り当てられてしまった。

キツいポジションほど、上司は「ここはすごく楽なポジションだよ!」と、平気で嘘をつく。
(本当に楽なポジションだったら、前任者はなぜ退職したの?)

そのポジションができなかったら、ミスをしてしまったら……無能扱いされる。

できたとしても、明らかに労働負荷が小さいポジションで 手が空いている同僚勇者たちが、必死こいて作業する俺を注視。

そして、作業をするだけで手一杯の俺に、上から目線で 重箱の隅をつつくような指摘をする。的外れなアドバイスをして、作業のリズムを狂わせてくださる。
(この現象に、何かしらの固有名詞を付けた方が良いんじゃないか?)

それでも努力して仕事を遂行しようとしたが――心身が、極限まで疲弊した。

辞職の意を伝えると、必死で引き留められた。

だが、辞めた。

「一人前になる前に 途中で逃げ出す奴は、一生 負け犬――」
などと宣っていたが、辞めた。

勇者という職業は、生きるために仕方なく就いている仕事だ。間違っても 情熱を注ぐような仕事ではない。

そこの線引きは明確にしておかねば、自分の人生がブラックな職場に喰い物にされてしまう。

俺は、より労働負荷が軽く、よりマシな報酬の職場を探すまでだ――

 

そして、公共職業安定所コンチワークに行った。

コンチワークでは、常に多くの異世界が求人を出している。

良い労働条件の異世界も あった。

例えば、ここ数年で爆発的に普及した生成AIを使う前提の求人などだ。

だが、俺は実務経験が無いとの理由で、書類審査でことごとく落ちた。

なので、誰でもできる仕事を出している求人を探した。

その中から、比較的マシな求人を選んだ。

それが、この異世界が出していた(……いやすぐに大半が辞めるから、今現在も出し続けている)
”勇者募集” の求人である。

 

午前中で、新人研修が終わった。

午後からは、それぞれの勇者は、配属先で実際の作業を教わる。

そして、俺の配属先には、俺含めて3人の新人があてがわれた。

配属先の昼礼で、朝と同じ自己紹介をする。面倒くさい。

 

俺に割り当てられたポジションについた。

……いよいよ、実際の業務が始まる。

はあああ……早く業務 終わんねーかなぁ……。

 

「どーも、指導役のサラ・リーロウです!よろしく~」

げんなりした表情のロードは、声のする方に目をやる。

そこには、この異世界の先輩勇者であろう女性が佇んでいる。

――その女性は、ロードと同年代くらいだ。

顔立ちは整っており可愛くて美人……なのだが、目にクマができている。

そのセミロングヘアは、やや明るめの茶髪に染められており、似合っている……のではあるが、手入れされておらずボサボサだ。

「あ、ハイ。本日からお世話になりますロードです。よろしくお願いします……」

「うん!よろしく!一緒に頑張ろうね!」

うわあ……テンション高えな……。

 

時刻は、12時45分。

昼休憩をはさんで、業務が再開される時刻。

新入勇者たちは、作業を覚えるために現場に入っている。

ロードに割り当てられたポジションは、標高100メートルにも満たない、小さな山の麓だ。

横に置かれた作業台には、5種類ほどの武器が納められている。

――ロードは、”それ” を察知した。

山道から――複数の雑魚モンスターたちが現れたのだ!

人間の早歩きくらいのペースで、襲い掛かってくる!

……いや、厳密には、俺の背後に広がるだだっ広い草原……の先にある市街地 ”ナーロッパ市” を目指して侵攻している……というべきだろう。

 

雑魚モンスターたちは、等間隔を空けて、まったく同じルートで、一定のペースを保って行儀よく行進してくる。

「最初の雑魚モンスターはタイプA!次はタイプC。その次は またタイプA」

サラは、都度指示をくれる。

ロードは、1体目のモンスターの討伐にかかる!

茶色く、ずんぐりむっくりの体型。

胴体に足をくっつけたようなフォルム。

眉間にしわを寄せ、どこか気難しい表情を浮かべている。

ロードは作業台から、対タイプA武器 ”伝説の剣” を取り出す。

そして、モンスターめがけて振り下ろす!

 

がすっ、と鈍い音がした。

モンスターは、無表情。

「効いてるよ!攻撃を続けて!!」
「あっ、ハイ!」

ロードは、同じように攻撃を繰り返す。

2回目の攻撃。
3回目の攻撃。
4回目の攻撃……。

”ちくしょおおおお!ぜんっぜん、1体目を倒せねえええええええ!!”

ロードは、どんどん近づいてくる2体目のモンスターを視界の端に捉えつつ、焦りまくっている。

 

そして、7回目の攻撃を繰り出した、その時だった。

-ぴろん♪-

絶妙にムカつく効果音が鳴り響いた。

同時に、1体目のモンスターが、まばゆい光と共に消滅していく。

なんとか、1体目を倒し……2体目がすぐそこに来てる!

間に合わねぇ……。

「ロード君、私が代わるよ!休みながら見てて」

ロードは、ぜえぜえ、と肩で息をしながら、サラに作業場所を譲る。

 

サラは、2体目のモンスター討伐にかかる。

緑色の甲羅。黄色い肌。温和そうな表情。

「これは対タイプC武器・ハンマーを使うのっ」

作業台から、昭和の漫画のギャグシーンで出てきそうな、”巨大なハンマー” を取り出したサラ。

ハンマーの側面には、”100t” ……ではなく、”業務用” と刻印がある。

それを容赦なく、温和そうな表情をしたモンスターめがけて振り下ろした。

どんっ、と重厚な殴打音が鳴り響く。

モンスターは無表情。

矢継ぎ早に、2回目、3回目の攻撃を繰り出す。

 

そして、4回目の攻撃を繰り出した、その時だった。

-ぴろん♪-

再度、絶妙にムカつく効果音が鳴り響いた。

同時に、2体目のモンスターが、まばゆい光と共に消滅していく。

スムーズに2体目を倒し……3体目討伐に落ち着いて取り掛かるサラ。

 

3体目は、ロードが7回の攻撃を要したモンスターと同種だ。

サラは、作業台から、対タイプA武器 ”伝説の剣” を取り出す。

そして、モンスターめがけて振り下ろす。

1回目の攻撃。
2回目の攻撃。

そして、3回目の攻撃を繰り出した。

-ぴろん♪-

再々度、絶妙にムカつく効果音が鳴り響いたが、学ぶことに集中していたので、ムカつく余裕すらなくなっていた。

すかさず、いつの間にか接近してきている4体目の雑魚モンスター討伐に取り掛かるサラ。

「ロード君は、全身に力が入りすぎてるんだよ。だから、武器に威力が乗らないし、スタミナ消耗が激しくなるの」

4体目のモンスターの討伐をしながらアドバイスをする余裕を見せるサラ。

 

……凄い。

サラさんは、俺よりも筋力は劣るだろう。

なのに、俺よりはるかに軽やかに武器を使いこなしている。

「ロード君は、ムダな動きが多いけど、落ち着いて作業できるようになれば、動きが最適化されていくよ」

サラは、俺よりも俊敏性も劣るだろう。

動きを見ていても、急いでいるわけでもなく、一定のペースで作業を淡々と続けている。

なのに、俺よりも圧倒的に早い。

 

【勇者】という職業。

雑魚モンスターをひたすら倒し続けるだけのカンタンなお仕事。

雑魚モンスターが消滅するまで、ひたすら斬り、叩き、刺し、撃つ。

それだけ。

誰でも覚えられる、簡単極まりない業務である。

”誰でもできる仕事、スキルや実務経験が無くてもできる仕事” の代表格だ。

……だが、大半の異世界では、要求される作業のスピードが、とんでもなく速い。

人件費を削減するために、より少ない勇者でより多くの仕事を回そうとするため、一人当たりの仕事量が膨大になるのだ。

 

「ここはメチャクチャ楽なポジションだよ!他のポジションはもっと辛い。

だから、ロード君も頑張ればすぐできるようになるよ!」

早めに仕事をできるようにならねばならない。

給料をもらっている以上、割り当てられた仕事はきっちりこなせるようにならねば。

勇者という、やりがいも無い、スキルも身につかない仕事でも。

――そして、死ぬほどクソつまらん仕事だったとしても。

 

「そのうち、この仕事も楽しくなってくるよ!!」

「…………………………!?」

「タイムアタックだと思えばいいんだよ。どんどん作業を効率化できるようになれば楽しいよ」

楽しい!?この重労働が!?この単純作業が!?

いや、単純な作業だろうと、複雑な作業だろうと、なんの創造性もない仕事を楽しむ?

それは無理ってもんだ。

「仕事を楽しもう。趣味にしよう!」

 

……サラさんは、社畜としての完成度……すなわち勇者として完成度が高いようだ。

労働負荷が度を超えて高いと、生活のすべてのベクトルが労働へと向いていく。

休日というプライベート時間すらも、”労働に備えた回復期間” としか考えられなくなる。

趣味を持つ余裕も無く、生きがいを抱く余裕も無いため――それらを勇者としての労働に見出してしまうのだ。

 

趣味を仕事にできるのは、幸せだが……
仕事を趣味にしてしまうのは、不幸だ。

 

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