【第4話:一極集中】異世界で勇者(底辺労働者)やってるが、ブラック企業なうえ魔王討伐が禁止な件

第4話
「一極集中」

――ロードが、この異世界に就職してから、3ヶ月が経過。

この異世界は、今日から繁忙期に突入する。

そして、繁忙期の間のみ一時的に臨時部隊が設立される。

責任者は部隊長(通常部隊と兼任)、補佐役はサラ、ついでに俺――

 

――雑魚モンスターの発生数が3倍にハネ上がる繫忙期。

そして、繁忙期のみ、年末年始のみ設けられる、この臨時部隊の業務内容――

繫忙期の一ヶ月間のみ短期雇用される大量の勇者達をまとめて、大量に増加する雑魚モンスターを討伐しまくるのだ。

 

もちろん、短期雇用のアルバイト勇者達は、これまでに勇者経験がない、つまりモンスター討伐の経験が無い人も多い。

定職につかないフリーターや、冬休み中の学生、また主婦も多い。

――そして、極めつけは……言葉による意思疎通コストが高い勇者たち。

遠く離れた異世界から大量雇用された、言語が違う労働者たちだ。

 

短期バイト勇者達が、続々と出勤、臨時部隊が配置されているこの場所へやってくる。

フリーターらしき勇者は、草原を眺めている。
冬休みの学生らしき勇者は、複数人で固まってフリートーク。
主婦らしき勇者は、多忙な家事の合間に来たのか、既に疲れているご様子。
言語が違う勇者たちは、半数を占めており……聞きなれない言語が飛び交っている。

そんな中、部隊長とサラは てんてこ舞いだ。

朝礼など無い。時間が惜しいからだ。

「ロード!こっちに来い!仕事を教える」

部隊長が慌ただしくロードに声をかける。

 

「あそこに 臨時武器庫があるだろ!

短期バイト勇者たちが担当してるポジションに行進してくるモンスター達を見て、基本の5種類以外が出現した場合、対応した武器を短期バイト勇者たちの所に届けろ。

使ったら、回収して臨時武器庫の元の場所に仕舞え。
これ、一覧表な!」

一覧表を見ると、今まで見たことのない種類のモンスターや武器が記載されている。

その数、50種類。

巨大なテントで設営された臨時武器庫の中に入ると、50種類にも及ぶ多様性にあふれた武器が並ぶ。

俺は、その内10種類くらいしか知らない。

「……え、これ、俺が管理するの……」

 

背後から、部隊長の声が聞こえる

「ロード!こっちに来い!仕事を教える!」

…………!?

聞き間違い……ではないよな?

不可解な面持ちで、急いで部隊長がいる場所に向かう。

「ここで、短期バイト勇者達が、黒魔術に使う5種類の液体を調合する。
ミスが無いように教えてやれ。
材料が足りなくなったら、すべて武器庫にある。

黒魔術でのモンスター討伐はサラが担当するから、随時サラの所に持っていけ!」

…………………………………………!??

教えようにも……”黒魔術に使う5種類の液体” ってのも、今 初めて知ったんだが?

目の前に、調合方法を記した紙も5種類分、貼られてはいるが……

調合した本人に確認させれば よくね?
初見の俺が、確認する意味は!?

んで、黒魔術用の液体の材料も、俺が武器庫から持ってくるの!?

 

……え?

あれ?
ちょっと待って?
ワケがわからなくなってきた?
言われた内容は、俺がやらなきゃいけないんだよね?
非正規雇用であるハズの俺が、初見の仕事を、大量に?

…………………労働負荷が、高すぎるんじゃないの?

ロードは、脳内から発せられる煩雑な思考に飲み込まれていた。

 

――モンスター達が、行進を開始した。

…………!?

タイプAのモンスターが、列を成して行進している様子が、ロードの視界に映る。

隣のポジションもタイプA。

その隣のポジションでは、タイプBのモンスターが、列を成して行進している。

あれ?俺の時は初日から5種類のモンスターを討伐したよな……。

アルバイト勇者たちが担当するモンスターは、ポジション毎に1種類に統一されているようだ。

そして、行進速度が明らかに遅い。

対応する ”伝説の剣” を何回も振り下ろす短期バイト勇者。

7発目で1体目を倒した。

余裕を持って、2体目が近づいてくるのを待ち受けている。

 

――――――――!?

タイプCモンスター達の列の中に、1体 別タイプのモンスターが紛れ込んでいる!

オレンジ色の皮膚と 大きな翼。
西洋竜を思わせる巨体を 2本の足が支える。
力強く伸びた尾には、赤い火がともっている。

……あんなモンスター、見たことがない。

ふと、一覧表に視線を移す。

…………ヤバい!

俺が、あのモンスターに対応する武器 ”消火器” を、武器庫に探しに行って、あのポジションの短期バイト勇者に届けなければいけないんだ!

 

ダッシュで武器庫へ向かい、急いで武器を探す。

「……はああ?どこに何があるのかわからねえ!整理整頓されてない」

必死で武器庫内を駆けずり回り、30秒後、消火器を見つけた。

それを持ちながら、必死でさっきのポジションへと届ける。

冬休みの大学生らしき勇者は、ロードが見たことのないモンスターが行進してくるのを、腕を組んで作業台に寄りかかりながら待っている。

ギリギリで、間に合った。

「この武器、お願いします!」

「…………」

ジトッとした視線をロードに向ける。

”…………えーと、次に俺がすべきは…………”

「これって、どう使えばいいの?」

”俺が……すべき……”

ロードの思考が、強制中断された。

つーか、先輩勇者であるこっちが敬語使ってんだから、そっちも敬語使えや。

内心イラつきながらも、答える。

「僕も、あのモンスターは初めて見たので、わかりません。
困ったら、”援軍要請アラーム” を鳴らして部隊長に聞いてくださいっ」

「……………………………………」

敬語も使わず、返事もしない、礼も言わない勇者から逃げる様に去るロード。

 

…………マジかよ!?

短期バイト勇者たちが担当する20箇所近いポジションを見渡したロードの視界に…………

初めてみるモンスターが……5体、映った。

一覧表を見るとそのモンスターと…………対応する武器が記載されていた。

……ヤバい!すぐに武器庫へ……

「あの!確認お願いします!あと勇者達への運搬も!」

ロードの思考が、ぶった切られた。

少しばかりイラついた雰囲気の主婦勇者が、話しかけてきた。

そちらを見ると、黒魔術用の液体が2種類 完成している。

ため息をつきながら、3種類目の調合に取り掛かる主婦勇者。

「あ……ハイ」

確認方法および、どこの勇者に届けるべきを、確認すべく一覧表を……

「コレ、ナンテヨムノデスカ?」

ロードの思考が、ぶった切られた。

背後から……別の作業をしている、違う言語の異世界からの勇者が質問してきた。

その作業方法を記した書類が読めないようだ。

「これは、”スキップしながら、パクチーを刻む” と読むんですよっっ 」

「スキップ……ドレクライ ハヤイデ ヤルデスカ?」

……グッチャグチャに混乱する意識の中、血眼で書類を読み、指定の速度でスキップを実演するロード

ここには、援軍要請アラームも設置されていない……

 

――ロードの背筋に、冷たい物が走る。

そして、理解せざるを得なかった。

自分の置かれた状況が、極めて危機的状況だという真実を。

 

恐怖の中、必死の形相で作業をするロード。

対して、周りの勇者達は――

黒魔術用の液体を作る5名は、比較的落ち着いたペースで淡々と仕事をしている。

そして、モンスター討伐をしている多数の勇者達は……暇を持て余しているようだ。

通常は、1つのポジションで5種類以上のモンスターを討伐する。

しかし、繁忙期の短期バイト勇者たちは、個別に教育する手間と時間もかけても、すぐ辞めるので無駄になる。

なので、作業内容は極めてシンプル。1種類のモンスターを延々と倒す作業がほとんどだ。

そして、モンスターの行進速度は明らかに遅い。

 

……俺が、こんなに覚える作業内容が多く、作業量も多いのに?

高速マルチタスクな俺をよそに、ゆっくりシングルタスクな他の勇者達。

 

入ったばかりの短期バイト勇者たちに 各業務を教えるよりかは、普段から務めている俺一人にそれらの内容をまとめて教える方が、明らかに楽だろう。

教育する対象者も、責任の所在も、一本化できるからだ。

さぞかし楽だろう……部隊長としては。

だが とうぜん、俺に降りかかる労働負荷は、高い……なんてもんじゃない。

人間の性能の限界にチャレンジさせられている気分だ。

 

俺も、非正規雇用。

短期バイト勇者達と時給は同じなのに、仕事がキツすぎる。

つーか、これ、正規雇用の勇者が複数人でやるべき仕事量と難易度だろ。

 

ロードは、全体を見渡す。

……違うモンスターが来たら、一秒でも早く動き出さないと…

「おい、手が空いてるなら手伝ってくれよ」

あなたの目は……てめぇの目は!ビー玉なのかァ!?

…………あれ?この男…………

粘着勇者が末席に座ろうとしているグループの一員……?

俺が入社した時には、既にここで働いていた先輩…………!?

複数の短期バイト勇者達を見て、必要に応じて武器の使い方を教えている様だ。

それ以外の時は、ゆっくり武器の手入れをしている……ゆっくりと。

 

「………………!?」

疑問を抱いたロードは、働いている勇者たちを見渡す。

他にも、同時に大量に非正規雇用された同期勇者たちも、数人いる。

あ、一時的な助っ人としてここに来たけど、本来の部署の業務と違うから、割り当てられる作業は、短期バイト勇者達と同じ内容なのか。

彼らは、短期バイト勇者たちと同じく、労働負荷が明らかに軽い。

 

――――――――――――――――不公平だろ!

明らかに労働負荷が小さいポジションで 手が空いている同僚勇者たち・短期バイト勇者たちが、手が空いてヒマなのか…………必死こいて作業する俺を注視している。

俺の、一挙手一投足に……ジトッとした視線が注がれる。

…………いや、気にしている余裕はない!

作業に全神経を集中…………。

…………!?

あれ?あそこの2人組、、必死こいて全速力でてんやわんやする俺を見て嘲笑してるのか……!?

 

「黒魔術の液体調合用のパクチー、もう使わないよ。
早く処分して、代わりにキンマ持ってきて!」

声の主の方へ目をやると、また別の 先輩がいる。

「……わ、わかりました……」

泣きそうな顔で、パクチーを廃棄用の壺にぶち込む。

パクチーを捨てて、キンマを用意すべく武器庫へと向かうロードに向かって、部隊長が、声を張り上げる。

「おい、パクチーが足りないぞ!早く用意しろ!」

あれ、もう使わないのでは?

先程の先輩の方に目をやると……そそくさと去っていく後ろ姿。

「…………」

先輩からの誤情報が原因で、必要物資を届ける事ができない……業務がストップ。

手が完全に空いた短期バイト勇者たちの視線が、一斉に集まる……針のむしろ。

 

こんなん、非正規雇用うんぬんの次元の話じゃない。

精神の拷問だ。

部隊長は、先輩方は、俺に恨みでもあるのか?心当たりが全くない。

あ……なんだこれ……なんか、精神が…………

 

――45分休憩。

モンスター達の行進の停止を確認したロードは、倒れる様に 草原に寝転がっていた。

”…………………………………………”

途中から ほとんど記憶がない。何も考えられない。

……飯を食べないと、午後から身体が持たない。

それはわかっているが、その気力すらない。

他の勇者たちが食堂に向かう中、ロードは仰向けに横たわったままだ。

 

――5分が経過した。

”早くメシ……いや、メシ食ったら眠くなって、動きが鈍る……”

少しだけ、思考力が回復してきたようだ。

”……休憩所の冷蔵庫に入れっぱなしで忘れてたな……サラさんにもらったデーモンエナジー”

 

――20分後、デーモンエナジーを飲むロードの姿があった。

ごきゅ……ごきゅっ……!

疲れ切った体中に、強烈に甘い炭酸水が行きわたる。

とんでもなく、美味い……。

…………!

体中に少しずつ、エネルギーが湧いてきている。

 

さらに、2本目のデーモンエナジーに手を伸ばし……缶を傾ける。

……底をついたと思っていたエネルギーが、体中から湧いてきているのを、感じる。

体が……動く。
脳が……動く。

…………ッッ――――

 

イケる!

俺はまだ、労働可能戦える――!!

 

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