I-State -侵略国家- 第10話「志思累々」

 

――――ちくしょう、間に合わなかった!

カズマは、血に染まり倒れていったワタルの姿を見ながら、歯嚙みをした。

ボサボサ頭の男がワタルに背後から接近していた事に――カズマは気づいていた。

 

折り畳み十字手裏剣を投げて、他の味方に当たらない様に弧を描き、ボサボサ頭の男の身体を狙う

……という時間的余裕も、僅かだが、あったのだ。

だが、先ほどよりも近い場所にいる敵、つまりボサボサ頭の男に当てるには……
乱戦中の4名の味方を迂回して、ボサボサ頭の男に当てるには……

さっきよりも、急激なカーブを描くように十字手裏剣を飛ばす必要がある。

それは、俺には……難しい。

狙いを外して、味方に当てる事など……決して許されない!

 

……だから、躊躇してしまった。

結果、ワタルは刺されて――血に染まり、倒れてしまった。

いや、もし投げてワタルに当たってしまったら……狙った通りに十字手裏剣が飛んで行っても、ワタル自身が、俺の予想外の動きをしたら……?

 

――1人反省会は、後だ!

今は、確実にできる事を積み上げる。

扱いが難しい弧を描く十字手裏剣よりも、扱いやすい直線軌道の棒手裏剣で!

棒手裏剣はまだストックがあるが、無くなったら……石、を投げる。見つかりやすいけど。

 

――カズマの視界に、ワタルを刺して身体を翻し、再びオウカに仕掛けようとするボサボサ頭の姿が映った。

だが……遠い!

オウカ自身が迎撃してくれる事を信じる……しかない!

カズマは、視線を別の方向へと向けた――

 

――――敵の援軍2人。

実力を低く偽って手こずってしまうと、さらに敵の援軍が来てしまう可能性が高まる。

……仕方ない。

ある程度、実力を解放するか。

-ギィンッ- -ドウッ-

オウカは、無精ヒゲの男が振り下ろす斬撃を右手の日ノ国刀で受け――同時に右脚での前蹴りを叩き込んだ。

うっ、と呻き声を上げて 倒れていく男。

 

――――その光景を認識しつつ、オウカの背後から接近するボサボサ頭の男。

オウカの右脚は、前蹴りの体勢のまま、空中にある。

――背後から、オウカの背中へと刺突が繰り出される!

 

-ヒュアッ-

男は……目を疑った。

この少女へ背後から放った、右手に握った太極剣での刺突。

仮に、察知できたとしても、片脚が宙に浮いたままの身体の自由を欠く体勢……。

避ける事は、敵わぬ。

我が太極剣の切っ先は、少女の背中を抉る!

――ハズだった。なのに――

 

まるで蜃気楼の様に、少女の背中を通り抜けた――?

そう思った瞬間、少女の姿は視界から消えた。

ゾッ、とした。

背筋が凍った。

どこだ?どこにいる!?

……右斜め後ろ……に……誰かがいる……こっちを見ている……。

――ヤバい!

 

迎撃すべく振り返ろうとした瞬間、右手に握っているはずの太極剣が……やけに軽いことに気付く。

不可解。

ボサボサ頭の男の視界に、奇妙な物体が飛び込んでくる。

空中に浮いた太極剣――その柄を握ったままの……手首?

なんで俺の太極剣と 誰かの手首が、あんなところに浮いてんだ?

太極剣は、俺がこの右手で今も しっかり握って――

 

ちらっ、と視線を落とすと、右手首から――血が噴き出していた。

右手首から先が、消失していた。

「……え……あ、があぁぁぁ……!?」

斬られたのか――?

事態を理解すると同時に、右手首から発せられる激痛。

 

同時に、背中に衝撃が走った。

オウカの左拳が、男の背面――肝臓部分へと叩き込まれていた。

男は、数メートルたっぷり前方へと飛ばされ……うつ伏せに倒れた無精ヒゲの男の身体、の上に積み重なる様に、うつ伏せに 倒れた。

びくんびくん、と数回 痙攣けいれんした後、男は意識を失った。

 

――敵兵2名の戦闘不能を、確認したオウカ。

突如、がくっ、と膝から崩れ落ちそうになった。

”…………え?”

なんとか、中腰で踏みとどまり、尻もちを付くのは避けた。

体力的には、まだまだ全然平気なはずだ。

しかし精神的には――カンナの死 以降、深層意識と顕在意識がぶつかり合い続け、オウカが自覚する以上に、疲労が蓄積していた。

精神は、肉体にも影響を与えるのだ。

――ヤバい!

オウカは、自分の全身に――鉛の様な重さを感じていた。

 

――――マキの心身の疲労はピークに達していた。

味方が交戦状態ならば、可能な範囲で悪路を走って現場へと駆けつけ、加勢。

加えて、国衛隊の味方の指揮を執るために思考を回転させ続けていた。

 

――対して、ヨハンはどうか?

この島での交戦は、侍・カンナを葬った一戦のみ。体力消耗は少ない。

加えて、北夕鮮軍の味方の指揮についても、思考力消耗が少ない。

――魚釣島への上陸・戦闘行為も、あらかじめ計画されていた。

つまり、あらかじめ指示された・熟考したパターンの中から選択し……それをあらかじめ作戦の大枠を周知されていた味方へと伝えるだけだ。

実にスムーズに指令が伝わり、実行される。

つまり、ヨハンに比べてマキは、心身の疲労の度合いが圧倒的に高い。

 

それを自覚しているマキは……にやっ、と笑いながら、右手に握る日ノ国刀を振り下ろした。

その眼前には――マキの戦術を卑怯と断じたヨハンの、怒りを湛えた表情があった。

-ギィンッ-

マキの斬撃を、その両手に握る龍泉剣で受けるヨハン。

……の顔面めがけて、そのまま突進するマキの左拳が伸びていく。

”絶対に、ここで仕留める!”

 

-ゴツンッ-

ヨハンは、頭部を全力で前へと振り――自らのひたいを、マキの左拳にぶつけた!

相手の拳を、額で受けて破壊……したハズだった。

ヨハンの視界に、火花が散った。

……え?

なんだ、この感触は……まるで、拳の大きさの……自然石。

くらっ、と千鳥足になったヨハンの思考が、一瞬だけ中断された。

 

その視界に――再度、左拳を繰り出すマキの姿が映った。

……足が、動かない……避けられない……。

刹那、ヨハンが選択した行動―― ”自ら倒れる”

 

-ブンッ-

マキの左拳が、空を切る。

「あ?」

イラついたマキの視界、右下に向かって倒れていくヨハン。

どさっ、とロクに受け身も取れずにその身体は、叩きつけられた。

左手は、側頭部を守る様に添えられ――同時に その右腕を、振りかぶっていた。

横一文字に倒れたヨハンの右手に握られた龍泉剣が、マキの右脚を襲う!

 

-ジャッ-

とっさに後ろに飛んだマキ……の、右脚の表面を龍泉剣の先端が通過した。

ゥッ……!」

じわぁ、とマキのズボンに血が滲んでいく。

 

”畜生、仕留められなかった――”

そんな表情を浮かべるマキの呼吸が、明らかに荒くなった。

「はあ……ぜはあぁっっ……」

過去、キックボクシング・直接打撃制空手を鍛錬した経験で鍛え上げられた――その左拳が、ジンジンと痛みを発し始めた。

”身体が……動かねぇ……”

残り少ない体力を さらに消費したマキの視界に……音も無く立ち上がる、ヨハンの姿が映った。

 

――――オウカは、その光景を見ていた。

マキ部隊長に、加勢しなければ。

だが……精神が、身体が、ひどく鈍重だ。

一歩踏み出すのさえ、億劫に思えてしまうほど。

オウカは、日ノ国刀を構えてヨハンへと歩を進めようとしている。

――瞬間、オウカの視界には――剣を振りかざし自分へと突進してくる、敵兵の姿が映った。

 

-ギィンッ-

マキの右側から、刀剣同士の衝突音が響く。

オウカ隊員と北夕鮮兵が、鍔迫り合いをしている。

それを一瞥いちべつもせず、ヨハンの冷たい視線は、マキを見据えている。

 

ヨハンは、龍泉剣の切っ先をマキの首へと向けた。

「君は、よく戦った……その卑怯な戦い方は、軽蔑するが」

日ノ国人様の領海に土足で踏み込んだのは、テメーらだろが」

マキは、日ノ国を鞘に納め――居合の構えを取る。

 

……もし、1対1だったなら、一秒でも長く会話を続けて、体力回復を図っていただろう。

だが、そうもいかない。

ワタル隊員が、出血多量・意識不明の重体だ。事は一分一秒を争う。

 

……それに、今にも倒れそうな私を見て――ヨハンはスカした表情をしている。

どこかでカッコつけている。即ち……油断している。

それに引き換え私は――崖っぷち。油断など、微塵もない。

誰かが、言っていた。

”手負いこそが最強”

マキは――怒りと暴力性、そして人間の――原初の獣性を湛えた表情を浮かべた。

こいつを――ブチ殺す!!

 

-ドッ-

左肩から、肉を抉る鋭い痛み。

茂みの中から飛び出した棒手裏剣が、ヨハンの左肩へと命中していた。

”……まだ、茂みの中に隠れている敵が……”

――マキは、最後の力を振り絞って、踏み込む。

そして……侍族に教わった剣術――日ノ国刀による斬撃を、放つ!

-ジャッ-

右腕に、新たな激痛が走った。

 

――――ヨハンの視界に、腕が舞っている。

その腕には、祖父の形見である龍泉剣が握られている。

北夕鮮の為に、総統の為に、勇敢に戦い――そして散った尊敬すべき祖父。

その祖父から、受け継いだ宝物だ。

”お祖父じい様、申し訳ありません”

ヨハンは、自分の戦闘不能を悟った。

そして、敵に囲まれている。

それ即ち……死。

 

右腕からの激痛に悶えるヨハンの眼前には、じりじり、と距離を詰めてくるマキの姿があった。

容赦なく、油断なく、獲物との距離を詰める姿は……まるで獰猛な肉食獣のようだ。

残った左腕で龍泉剣を拾うヒマなど与えまいと、肩で息をしながら一歩一歩、近づいてくる。

ヨハンは、悟った様な表情を浮かべる。

棒手裏剣が左肩に食いこんだまま、その左腕を上げ……殴打に適した構えを取った。

 

少しでもいい、この女性の体力をより消耗させる

――後は、同胞たちが繋いでくれる。

私の、私たちの意志を。

”全ては、総統の為に”

 

――――前へと歩を進めるマキ およびヨハンの動きが……ほとんど同時に静止した。

マキに加勢しようとして、敵兵に阻まれていたオウカの動きも。

そして、他の国衛隊隊員および北夕鮮軍兵たちの動きも。

ARレンズを通した その視界に、真っ赤な文字で ”緊急通知” が表示されたからだ。

 

マキは、目を見開いた。

[<緊急>北夕鮮は、我が日ノ国の退去要求を承諾。戦闘を終了せよ]

情報課からの連絡だ。

同様の通知が、ヨハンの視界にも表示されたのだろう。

その両目が、見開かれている。

数秒後、一気に気が抜けたような表情を浮かべ――血に染まったその身体が――地面に倒れていく。

 

以前として赤マーカーは表示されてはいるが……

国衛隊隊員も、北夕鮮軍の兵も、戦う理由がなくなった。

鍔迫り合いをしていたオウカと敵兵も、戦いを止めた。

――双方が距離を置き……武器を仕舞った。

ヨハンは、左腕で龍泉剣を持ち、鞘に納めた。

マキに斬り飛ばされた右腕は、部下が丁寧に拾い上げている。

 

マキは、地面に横たわるケンジとワタルに目を向ける。

緑マーカーは……2人とも、消滅していた。

ギリッと、歯を食いしばる音が、聞こえた。

 

――北夕鮮兵が、ヨハンの左肩に生えた棒手裏剣を……引き抜いた。

ヨハンの顔が、一瞬、強張る。

肩を貸そうとする北夕鮮軍兵の申し出を断り、自分の足で立ち上がる。

「交戦状態の解除は、数分後には承認されるだろう」

ヨハンはそう言いながら、右腕を 左腕で抱えながら、北夕鮮軍の兵たちと共に歩いていく。

そして、深い森の中へと消えていった。

 

――――マキは、視線をヨハンたちから――味方たちへと移す。

日ノ国の為に、命を落とした味方2名へと。

ケンジと、ワタル隊員。

そして、この場にはいなくとも、この魚釣島 全体にも、殉職者はいる。

……その合計数、8名。

日ノ国の為に身命を賭し、そして絶命していった。

力なく横たわる その身体は、傷口から赤い血が とめどなく流れ出している。

マキは、オウカに背を向けて、静かに仁王立ちしている。

オウカからは、マキの表情は見えなかった。

――いや、仮に見えたとしても、見る事など……到底しなかっただろう。

 

「はあぁ―――っ、………………」

茂みの中からは、安堵の声が漏れ……そして、マキの心境を察したカズマの、沈黙。

「――カズマ隊員、出てきなよ」

無理やり笑顔を作る マキの呼びかけに対し、カズマは応えず、答える。

「あ……えっと、茂みの中から 少し黙祷しても よろしいでしょうか?

自分、忍者なんで……なんか、二重に すいません」

黙祷は、外部に対して 無警戒になる。まあ、当然っちゃ当然か。

「了解っ」

 

”部隊長として、私の判断は、在り方は適切だったのだろうか?”

重責を痛感するマキ。

……後だ。

それを考えるのは、後。

部隊長として、今やるべきことを、やろう。

 

――マキは、どすっ、と勢いよく地面に座り込んだ。

「オウカ隊員も座れ。楽にしていいぞ」

オウカも、こくっ、と頷いて座り込もうとする

……が、軽くよろけて、どてっ、と尻もちを付いた。

身体がひどく重く、鈍く感じる。

 

マキは、カーゴポケットから、包装された2つの丸い物体を取り出した。

「兵糧丸だ。疲労回復効果がある」

オウカは、兵糧丸を1つ受け取る。

数秒間、まじまじと見た後、口に放り込んだ。

……疲れていて、お礼を言い忘れたことに気付くオウカ。

「ありがほぉ ございまふ」

 

マキは、もう1つの兵糧丸を自分の口に放り込んだ。

そして、空中を2回タップ、仮想キーボードを叩きはじめた。

……情報課へと、報告をしているんだろう。

”魚釣島における交戦で、相手が撤退しました。勝利しました” という主旨の報告を。

マキは、文章を軽く推敲……送信ボタンを押したようだ。

その後、また別の所への報告の文章をタイピングしている素振りを見せる。

 

――魚釣島での局地的な交戦で、双方にこれだけの死者を出した。

つまり、ごく近い将来――日ノ国と北夕鮮は、”全面戦争” に突入するだろう。

 

――数分後、マキは、ふぅっ、と一息ついた。

「悪い。数秒間、待っててな」

目を閉じ、両手を合わせて――黙祷。

味方にも、少なくない殉職者が出た。英霊への祈り。

オウカは、カンナの事を思い出しそうになったが、もう精神的にギリギリなので、必死で振り払った。

……明日、ゆっくりと向き合おう。自分の心に。そう思った。

 

約10秒後、マキは黙祷を終了した。

本当なら、10秒と言わず1分間、いやもっと黙祷したいところだが、それは明日にしよう。

部隊長として、まだせねばならないことが山積みだ。

 

――マキは、オウカの左手から血が垂れていることに気付く。

そして、その手の甲に刻まれた……真新しい傷に気付いた。

数秒間、それを見ていた。そして口を開く。

「――オウカ隊員」

オウカは、マキに目を合わせる。

マキは、唐突にも思える言葉を発した。

「お前を、信頼する」

マキのその言葉は、”これまでは、お前を疑っていた” という意味にも、受け取れる。

 

――マキは、今回の任務にあたり、召集する隊員たちの中にオウカを含むことになった。

そしてマキの上官の1人、忍者族の女性。腰まで届く長いポニーテールの くノ一。

”ハツメさんから、オウカがスパイである可能性あり、と警告されていた”

立場上、その情報をオウカに知らせる事は出来ない――その事実に マキは心苦しさを感じている。

 

――マキの一言に、オウカが どこまで考えが及んでいたのかは――定かではない。

だが、オウカは……少しばかり救われた気がしたのだ。

そして、その表情は少しばかり、柔らかくなった。

精神が極限まで追い詰められていたオウカは――自分の内面の奥底に、じんわりとした温かみを感じた。

……不意に、涙が溢れそうになった。

「――ありがとうございます」

 

――オウカは、目を見開いた。

その視界に、マキの死角から、音もなく高速で接近してくる ”それ” を、捉えたからだ。

オウカは、視線をマキの瞳から……下に落とす。俯く。

――マキには決して聞こえない極小の声量で、静かに呟いた。

「……ごめんなさい」

 

-ひゅんっ-

――オウカは、後ろへと突き飛ばされた。

反射的に、マキがオウカを突き飛ばしたのだ。

覚えのある柔らかい風が、オウカの顔を撫でた。

オウカは、マキへと視線を――

 

――マキの首、後ろ1/3ほどが、 ぱっくり、と割れていた。

必然、そこを起点にみるみる赤い滝が形成されていく。

マキは、日ノ国刀を抜き、臨戦態勢を――

身体がぐらつく。意識が、身体が……重い。だるい。

 

――マキは気力を振り絞り、ありったけの声量で国衛隊隊員たちに命ずる。

最後の、最期の、命令。

「逃げろおぉォォッッ!!」

 

-ひゅんっ-

叫んでいる最中のマキの頭部が、宙を舞った。

残された身体は、頭部に永遠の別れを告げるように――赤い大噴水を、首を起点に形成していく。

大噴水が放出する赤い液体が、風に吹かれてオウカの顔面へと降り注ぐ

 

――その光景を、黙って見ていたオウカ。

《なにが、ごめんなさい、だ?――こうなる事が わかって何もしなかった。お前は》

オウカは、自分の内面の奥底に、闇、いや虚無を感じた。

放心状態。

両目から、涙が溢れだした。

そして、赤い液体……マキの鮮血と混じり合い、頬を伝っていく。

 

――座り込んだままのオウカの視線の先。

赤マーカーが表示された 20代前半のボブヘアの女性が、静かに立っている。

ラウンド型サングラスが、太陽光を反射してギラッと輝く。

右手に握られた ”倭刀” の鏡面の様な刀身は、複数人の血を吸って、赤く染まっている。

”あれ、太極剣から倭刀に替えたのか?……この人、教えるの厳しくて下手なんだよなぁ。何人 逃げ出した?”

 

――ボブヘアの女性は、シーナ国軍におけるオウカの上官シャオルーは、オウカの方へとゆっくり歩を進める。

……小さく言葉を発する。オウカにのみ聞こえる様に。

「今の直属上官はメイフェイさんか。お前も大変だな――上官と言い、父親と言い」

”父親” という言葉で、オウカの顔が強張る。

「その表情だ。立て。構えろ――茂みの中で震えてるネズミが、お前の潔白の証人になってくれる」

オウカは、自分の ”最終目的” を思い出し――立ち上がる。日ノ国刀を鞘から抜き、構える。

「……そろそろだ」

 

「――オウカ!!」

ああ、いつも聞いている、あの声が聞こえる。

声が発せられた方向を向くと、エレナ……と、ツリ目の……表示されている名はセイイチ。

シャオルーは、再び小さな声で告げる。

「もう少しで始まるぞ。シーナ国による日ノ国侵略の最終段階が」

オウカは、シャオルーに視線を戻す。

 

-ドズッ-

オウカの腹部に、左拳が食いこんでいた。

視線を戻した後に放たれた、左の拳撃。

――反応できなかった。

化勁で、威力を可能な限り全身に分散――

-カッ-

左掌底でアゴを打ち抜かれ――オウカの視界に青空が広がる。

……そして、視界を 闇が、虚無が覆っていく。

 

失われていく意識の最中、最後に認識できたのは、深い森の中へと消えていく シャオルーの姿。

――オウカは、気を失った。

 

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