
第2話
「ディストピア・オメラス」
”最底辺の労働者”である、勇者。
そして、この異世界での勇者としての労働、初日。
その職場で出会ったのは、過労で目にクマができている女性の先輩勇者・サラ。
可愛くて美人だが、その茶髪のセミロングヘアは、ロクに手入れされておらずボサボサだ。
そのサラに、仕事を実演指導されている最中のロード。
「あ、ありがとうございます。また、俺やります。仕事を早く覚えるために」
ロードは、また作業場所に戻った。
作業自体は単純だ。雑魚モンスターおよび それに対応する武器も、俺の割り当てポジションでは5種類しかない。覚えられない数ではない。
現れた雑魚モンスターに対応する武器を、予め指定された武器で討伐するのだが……使用する武器を間違えてはならない。
だが、何時間も動き続けていると、体力はもちろん集中力も消耗していくので、これが意外と間違えやすい。
(間違えると、修正の手間が発生する。他の業務で忙しい部隊長が鬼の形相で飛んできて、修正をする)
勇者という職業は、動き続けるのは当然の事として、同時に高い集中力をも発揮し続けなければならないのだ。
また、この異世界の勇者業務は、日勤と夜勤作業が一週間ごとに入れ替わるため、自律神経はどんどん乱れていく。
作業を覚えても、心身に甚大なダメージが慢性的に溜まっていく、過酷な仕事である。
――さて、休憩時間が近づいてきた。
作業を2時間ほど続けて、疲れているが……それどころではない。
休憩時間になったら、とうぜん休憩する。休憩場所に行く。
……それ即ち、人間関係という修羅場に身を投じることを強制される……ということだ。
古今東西 様々な異世界で、職場での悩み事ランキングの首位を独走し続けるのは……そう、”人間関係” である。
どんなに働きやすい業務内容であろうと、人間関係がクソだと……職場のすべてがクソになる。
……別に、お互い優しさと思いやりを持って接するような、良き人間関係など望んでいない。
ただただ、俺に干渉しないでくれ。仕事以外の事柄で一切 俺に干渉しないでくれ。
頼む。
お互い無関心な職場であってくれ………………
――休憩時間になった。
雑魚モンスターたちは、ピタリと行進を止め、微動だにしない。
まるで、ゲームの一時停止ボタンを押したかのように。
休憩時間は 10分間ではあるが、休憩所までの往復時間やトイレ時間などを引くと、せいぜい8分間ほどになる。
「ロード君、休憩所の場所を案内するよ」
「ありがとうございます」
サラについていくロード。
「あそこだよ~」
「…………………………」
草原の中に、複数のテーブルと、それを囲む様に合計30個ほどのパイプ椅子が並べられている空間。
そこに先輩勇者達が、20名程いらっしゃる。
誰かが発言すると、他の勇者たちが鋭い目線で反応する。
誰もがピリピリしており、空気が重い。
ああ、この雰囲気。以前の異世界でも何回も体感してきた。
お互いの言動に隠した裏の意図を、探り合うような空間。
常にマウンティングの機会を伺い、詰め将棋の様に段階を踏み、相手がギリギリ怒らなそうな範囲での攻撃を続け、相手の自尊心をジワジワと削っていく。
友好を装ったマウンティング合戦が繰り広げられている。
友好を装いながら相手の自尊心を削る行為は、
相手が、怒る理由を言語化して怒ったとしても
「君の考えすぎだって!」といえば封殺できる。
もし、それ以上追求したら、追求した側が異常者扱いされるからだ。
――緻密で陰湿な心理戦が、毎日行われている。
自分以外の誰かを共通の敵にするための、マウンティング・バトルロイヤル。
自分以外の誰かをスケープゴートにするための、マウンティング負け上がりトーナメント。
毎日もれなく開催。参加の是非は自由。
だが、参加しないと……すなわち1人でいると、たちまち陰口のターゲットに認定される危険性が極めて高い。
休憩中も、気が休まらないどころか、より疲弊していく休憩所。
「じゃ、私は部隊長への報告業務があるから、また作業場でね!」
そういって、サラは、草原の中へと消えていった。
ロードは、自分の足が動くのを拒否している様な錯覚に陥っていた。
何故なら、休憩所という戦場に入ったら、否応なしに地獄のギスギスコミュニケーションが発生してしまうからだ。
……しかし、立ち尽くすわけにもいかない。進むしかないのだ。
……元気よく挨拶したら、先輩方に一斉に注目される。
コミュニケーションが発生してしまう。
話のネタが尽きて会話が続かず、お互い無言で牽制しあうような空気の中、話のネタとして扱われてしまう。
もちろん、最初はニコニコ優しく接されるので、「なんだ。いい人たちじゃん。安心した」と油断しそうになる。
……しかぁぁしっ!
それは注意深く査定されているに過ぎない。
「優しくしておかないと、後々コイツがこの職場で権力を得た場合、敵に回ることもある…」という長期視点での生存戦略に基づいた思考であって、決して本当の優しさではない……パターンが非常に多い。
なので、1人でいると…休憩時間に、1人で書籍を読んで勉強していると、優しいと思っていた先輩達に、共通の敵・陰口ネタ供給源として認定される恐れもある。
少なくとも俺は、実際に何回も経験してきた。
ふと前方に見てみると、同時入社の新人勇者2人の姿があった。
1人は上擦った声で挨拶をした。もう1人は黙って座った。
俺は……無言で会釈をして、端っこの椅子に腰を掛けた。
グループから離れた位置に、1人で座っている先輩もいるが……明らかに話しかけんなオーラを発している。
話しかけた瞬間、ひっぱたかれても不思議はない。
はああああ……休憩時間も疲れる職場だ。
右ポケットからスマホを取り出し、電子書籍を読み始める。
……が!
職場の状況が気になって、内容が頭に入ってこない。
”こんな職場で、上手くやっていけるのだろうか……?”
――休憩時間が終了する1分30秒前。
作業は、休憩時間終了と同時に強制的に再開される。
勇者たちは、休憩時間終了前にそれぞれの作業場へと戻っていく。
ロードも、急いで自分の作業場へと戻る。
「時計をチラチラ見ながらの休憩だと、なんか休憩した気がしない……」
ブツブツと独り言をつぶやきながら、作業場へと戻ったロード。
数十秒後。
忙しそうに小走りで、こちらに向かってくるサラの姿が見える。
――作業が再開される時刻になった。
静止していた雑魚モンスター達が、再び行進を始める。
ロードは、作業台から武器を取り出す。
魔法の杖。
その先端をモンスターに向けて――ボタンをポチッとな。
魔法の杖の先端から、ビームが放たれる。
モンスターに命中した。とうぜん、一発では倒れない。
2発目。
3発目。
4発目。
5発目。
6発目――倒せた。
次のモンスターの迎撃態勢に移行。
作業台に魔法の杖を戻し、次なる武器・鎖鎌を取り出す――
――よし、少しだけだが、コツが掴めてきたかな。
……5分後。
ヤバい!
次の敵がもう、もう目の前に来てるのに!
その前の敵がまだ対処できていない!
「ロード君、代わるよ~!」
サラが、作業台から颯爽と、鎖鎌を取り出す。
さっき、俺が使った武器だ。
ひゅんひゅん、と、勢いよく振り回し、鎖鎌でモンスターを攻撃する。
サラは、次々にモンスターをなぎ倒しながら、ぐったりしているロードの方に目をやる。
目にクマができてはいるが、可愛い笑顔で 言い放つ。
「仕事がキツいほど、休日が楽しくなる。というか、キツいのも楽しいのも いずれ慣れる。
結局同じ。人間の欲望には限りがないからね~!」
まあ、仕事に関する思想など人それぞれだが……その言葉には、大いに違和感を感じる。
その理論だと、
”給料を減額されてもいずれ慣れる……だから同じ”
……といってるに等しいのでは?
ストレスに慣れるというのは、ストレスを検知する自己防衛機能が麻痺していくだけだ。
無自覚のまま、心の深奥に……濃縮されたストレスは確実に蓄積していく。
代償として、どんどん大切なモノが欠落していく……人間性に異常をきたすのだ。
「こないだまで女性の部隊長がいたんだよ。
やたらアニメ声で、上司に取り入るのが上手い人だったけど、いきなり姿を消した。
……まるで、神隠しにあったかの様に」
それは、嫌気がさして電撃退職ただけでは……とロードは内心 思ったが、言葉にはしなかった。
サラの口調は、怒りを内包しているようにも感じられたからだ。
「そして、当時 補佐役だった男性が急遽繰り上げ昇進。それが うちの部隊長。
補佐役としての仕事も覚えてる途中だったのに、部隊長としての仕事をやらなきゃいけなくなって、いつも愚痴ってた。
あ、もちろん私も急遽 補佐役にされて、大変だった」
”サラさんも部隊長も、大変なのに頑張ってるんだなあ” ……と、ロードは思った。
ロードは、学歴もスキルもなく、無気力で自堕落な人間だった。
高校卒業後、定職に就くこともなかった。
生活費がなくなりそうになったら、短期集中で嫌々働いて当面の生活費を稼ぐ。
……小金が貯まったら辞めて、金が尽きるまでダラダラ生活……。
そんなサイクルを繰り返していた。
数年後、このままでは、いけない……と思い、色々と自分なりに市場価値の高そうなスキルを勉強してきた。
そして、勉強した内容を活かせる職種に就職しようとした。
しかし、どこの企業の面接でも
「実務経験はないのですか?」
「結果を出している方を採用したいので……」
……といわれ、数十社受けても採用されない。
実務経験を積もうにも、どこの企業も採用してくれないので、実務経験を積めない!
結果を出している方なら、貴社に安っすい時給で雇われるよりも、そのまま自分で稼いでいく事を選ぶだろ!
……新卒カードという、期間限定チートアイテムを使わずにドブに捨ててしまった……という事実に、後から気付いた俺。
時すでに遅し。
とりあえず、目先の生活費を稼がなきゃ……と必死で行動していた。
気がつけば、”最底辺の労働者” である勇者として、ブラック異世界を渡り歩く生活を送っていた……。
日々の過酷な労働で体力も気力も使い果たしてしまい、もはや勉強する体力も気力もない。
俺の人生は、もう……………………………………。
――作業終了時刻。
雑魚モンスターたちはピタッと行進を止め……回れ右して 山道を帰っていく。
…………………まず、初日を乗り切った。
いや、何回もサラにフォローしてもらった……。
いや、むしろサラが作業してる時間のが長かった気すらするが……。
「今日は、珍しく定時終わり!」
サラは、嬉しそうにはしゃいでいる。
可愛い。
目にクマができてるけど。髪ボッサボサだけど。
「じゃ、私は報告書の作成があるから!また明日!!」
サラは、忙しそうに すっ飛んでいく。
勇者たちは、一斉に慌ただしく帰宅していく。
俺も、明日の出勤に備えてはよ帰って寝なきゃ。
ロードは、休憩所の近くの駐輪場に行き、ママチャリにまたがる。
勤務場所であるこの草原から、自転車で10分ほどの場所にある居住区を目指す。
――到着。
ここは、ナーロッパ市の郊外だ。
この異世界で働く勇者たちに あてがわれている寮に到着。
一見、集合住宅の様な外見に見える。
俺の部屋は……縁起でもねえ404号室。
4階まで、階段を上る。エレベーターなどという貴族の乗り物は、ない。
ドアを開けて6畳の せまい部屋に入ると……小さなちゃぶ台が ちょこんと置かれているのみ。
トイレも風呂も冷蔵庫も、水道すらも……ない!
何故なら……【すべて共用】だからだ。
トイレは、部屋から出て廊下の突き当たり。
水道は、トイレの洗面所にある。
冷蔵庫は、1階のロビーにある。
風呂は、1階に大浴場がある。
洗濯物は、1階のコインランドリー。
食事は、2階にある食堂。
……ははは……。
――勇者の待遇。
生活に最低限必要な給与と、宿泊場所が与えられる。
給与は、総支給額から社会保険料など様々な名目で天引きされ、手取りは最低賃金に近い。
宿泊場所として、寮が提供される。寮費は、しっかりと給与から天引き。
以前は、1つの部屋に複数人を入れて相部屋にしていたようだが、苦言を呈して即辞める勇者が多かったらしい。
なので、1人部屋になったそうだ。
(しかし、むしろ相部屋であることをアピールする異世界求人もある。食事も一緒だとか。
孤独感に極度に苛まれやすく、一人でいる恐怖から逃れたいヤツが集まるんだろな。
俺なら1日で発狂するわ)
ちなみに、雑魚モンスター討伐の為のすべての武器は、雇用主から貸し出される。
自前のモノがあっても、一切使ってはならない。
――ああ、疲れた。
仕事で十分すぎるほど疲れたのに、トイレや食堂や大浴場で出くわす 他の勇者たちに気を遣うから、リラックスできんわ。
もう、こんな時間か。
とっとと寝よう――
――入社2日目。朝。
もう朝かよ……
眠い。
出勤したくない。
あったかい布団から出たくない……。
――出勤。
眠い。退勤したい。
朝礼が行われる。
部隊長が何か言っているが、知らない単語が多くて何を言っているかわからない。
ラジオ体操で、半分眠っている身体を起こす。
その後、昨日と同じ場所でモンスター討伐を始める。
作業台から武器を取り出し、行進してくる雑魚モンスター達に、流れ作業的に攻撃を重ねる。
指導役のサラは、昨日と同じ事を言っている。
「仕事がきついほど、休日が楽しくなる!」
「キツいのも楽しいのも、いずれ慣れる。結局同じ!人間の欲望には限りがない!」
まるで、サラが自分自身に言い聞かせている様な……違和感を感じた。
――昼休みになった。
ロードは食堂で昼食を食べながら、1つ前の職場を思い出していた。
南国リゾートっぽい異世界で、勇者としてバイトしていた3ヵ月間を。
その職場は……とんでもない仕事量で、とても辛かった。
だが、その仕事の激務もさることながら……一番ダメージを負ったのは、そこの人間関係だった。
リゾートバイトってのは……特に南国リゾートでのバイトってのは……独特の解放感がある。
青い海。
青い空。
鬱蒼とした大自然。
爽やかな風。
照りつける太陽――――
――このような環境だと、解放されやすいのだ。
……そこにいる勇者たちの人間性が。
南国リゾートっぽい異世界では、距離感がバグっているおっさん勇者たちが、不愉快極まりなかった。
会話が続かないから、子供の様に テンションを無理やり上げて、気まずさを誤魔化す おっさん勇者たち。
俺は、社会人として適切な距離感を保とうと思って敬語で失礼の無いように接した。
だが、ベタベタ距離を詰めてきて、どんどん上から目線になっていくアホが、異様に多い。
”若々しい” と ”幼稚” を 履き違えたおっさん程、不愉快なモノはない。
子供は幼稚で無邪気だ。
だが、リゾバで出会った おっさん勇者たちは……幼稚であり 長年濃縮された邪気がメガ盛だった。
……俺は、南国リゾート異世界で働いた経験は少ない。
母数が少ないゆえの偏見なのかもしれない……のを承知で言う。
南国リゾート異世界のバイトってのは……他の職場で相手にされず、孤独感から逃れたい人間が行きつく場所の1つなのではないか?
元々の人間性に問題がある勇者が、南国リゾート異世界に辿り着き、そこでの解放感によりアホな人間性を遺憾なく発揮してしまうのでは?
……と邪推せざるを得ない。
薄給激務な職場は、他の職場でもやっていける勇者から次々辞めていく。
他の職場でやっていけない逆エリート勇者だけが残る。
どんどん新人勇者が入社して、が逆エリートのみが生き残る。
まるで蠱毒。
そんな地獄の様な職場では、人間性に大いに問題がある勇者でも、問題視されない。
周りもそういう人間が多いからだ。
もし、咎めて辞められたら、経営者も同僚も、自分の首を絞めることになるからだ。
だから、人間性に大いに問題がある勇者にとっては、南国リゾート異世界の人間関係は相対的に良好だろう。ハブられないんだから。
水が低いところに流れていく様に、薄給激務なリゾバに辿り着き、留まっているんだろうな。
……と思ってしまう。
表面上は、やたらフレンドリー(つーか距離感がバグってる)だが、常にマウンティング合戦を繰り返している様に見えた。
俺は、独りでいたが、構わず距離を詰めて来られて、本当に煩わしかった。
――煩わしい反面、彼らの思考回路に少しばかり興味を持った。
なので一度、彼らの心境になってみようとしたことがある。
彼らの行動から、彼らの思考回路をイメージしてそれをインストールしようとした……。
しかぁし!
10%くらいの時点で本能が拒絶反応を示した。
ものすごく危険。
波動が下がりすぎる。
止めておいた。
そして、この異世界では、その攻撃性がわかりやすく表面化されやすい人間関係のようだ。
南国リゾート異世界の、表面上はフレンドリーな人間関係を、テンションを下げて少しガラを悪くした感じ。
――入社7日目。
出勤して、今日の作業指示書に目を通す。
いつもと同じだ。
”夜勤シフト” という事以外は。
ロードは、夜空を見上げた。
ゴールドに輝く月。
シルバーに輝く月。
美しく輝く2つの月が、妙に憎らしく感じる。
――作業開始時刻。
……!!
マジか……一発目からついてねえ。
めったに来ないモンスターが歩いてくる!
――芋虫の様なフォルム。黄色い体表。
頭から お花を生やし、ミッ〇ーマウスの様な営業スマイル。
相対する者の警戒心をゆるやかに解く風貌。
いかにも ”平和主義者です” といわんばかりだ。
……ヤバい!早く取り掛からねば!
ロードは、作業台からめったに使わない武器を取り出した。
――銀色に輝く、薄く長い刃。
その特性を活かし、刃自体が鞭の様にしなり、蛇の様に変幻自在の軌道を可能とする。
……とある異世界が発祥の武術・カラリパヤット――の武器・”ウルミ”
この武器は 扱いが難しい上に、たまにしか使わないから、なかなか慣れる機会がない。
ロードは、右手でウルミの柄を握り――振った。
-バシッ-
1発目の攻撃が、モンスターに入った。
――――――――!?
攻撃が命中した直後、モンスターの身体は一瞬にして赤く染まった。
いかにも平和主義者ですといわんばかりの表情は……豹変していた。
モンスターは、目を吊り上げ、青筋を立て、牙を剥いている。
「ひ、ひいいいいい!」
モンスターの怒気に溢れた表情を見て、恐怖を感じるロード。
モンスターは、こちらに向かって突進してくる!
ヤバい、間に合わない!!
急いで、作業台に備え付けてあるボタンを押した。
”援軍要請アラーム” だ。
約15秒後、部隊長が 猛ダッシュで、どたどた足音を立てながら駆け付けてくる。
モンスターに負けないくらい、恐ろしい形相をしている。
「その武器、貸して!」
ロードは、急いでウルミを手渡す。
部隊長は、右手でウルミの柄を握り――右腕を振った。
銀色に輝く刀身が美しい波を描きながら、モンスターへと飛んでいく。
見事モンスターに命中した蛇の様な刃が、ざしゅっ、と音を立てた。
2発目。
3発目。
4発目――倒した。すげえ。
ロードは、次のモンスターの迎撃態勢に移行しながら、その光景を眺めていた。
部隊長は、ウルミを作業台にしまい、大きくため息をついている。
「ここは、凄く楽なポジション……。あと よろしくね。」
物ッッッ凄い迷惑そうな表情を浮かべながら去っていく部隊長。
いや、アンタ……
入社1週間しか経ってない新入り勇者に、部隊長クラスが4発(いや、その前に俺がささやかながら1発入れてるが)の攻撃を必要とする様な強敵を、1人で迅速に倒せと!?
それは、無理ってもんだろう。
俺は、モヤモヤした心境のまま、モンスター討伐を続ける。
――1時間が経過した頃だった。
違和感。
雑魚モンスター達の行進速度が――速くなっている!?
10体目を倒そうと、複数回の剣撃を浴びせていると、11体目が目前に迫っている。
さっきのたまにしか現れないモンスターは難易度が高いからさておき……
それ以外のモンスターは、先週の金曜日には、ギリギリ1人で倒せるようになっていた筈だ。
給料をもらっている以上、早く独り立ちせねば。割り当てられた仕事は1日でも早くできるようにならねば……と思っているからだ。
勇者の仕事はクソつまらんし嫌いだが、雇われて給料をもらう以上、それなりの意識は持っているつもりだ。
だから、必死で頑張って速くなった、独り立ちに近づいたつもりだった。
なのに――先週より、速くなってないか?
ロードは、必死でモンスターを討伐し続けた。
美しい2つの月に照らされながら行進してくる雑魚モンスター達に、言い知れない恐怖を感じながら。

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