【最終話:DIE WITH ZERO】異世界で勇者(底辺労働者)やってるが、ブラック企業なうえ魔王討伐が禁止な件

最終話
「DIE WITH ZERO」

――――土曜日の夕方。夜勤開始時刻の1時間前。

ロードは、スマホのアラームで目を覚ました。

……今日、土曜日は夜勤の日だ。

だが、とても出勤できる状態ではない。

 

ふとんの中からスマホに手を伸ばす。

欠勤の時は、部隊長に電話をするルールだ。テキストメッセージでの欠勤連絡は、認められない。

「おつかれさまです。ロードです。極度の体調不良なので、休ませていただきたいです」

「いや、出勤できるでしょ!昨日も問題なく働けてたじゃん」

……案の定、なんとしてでも、欠勤を阻止しようとしてくる部隊長。

「いえ……極度の体調不良により、本日はお休みさせていただきます」

「…………もし休むなら、病院行って治療薬もらってこい。必ず診断書を提出してくれ」

「…………自費ですか?」

「もちろん」

”体調不良の中、病院に行くのも辛いし、自費なのも辛いだろ?
同じ辛い思いするなら、出勤して働いたほうが給与もらえて得だぜ?”

……という意図が、透けて見える。

「……極度の体調不良ってのは、自己暗示の可能性もあるだろ?出勤できるんじゃないか?」

「極度の体調不良です。今日は、療養のために家で休みます」

「…………………………………………………………………」

返事をしない部隊長。

「……………………失礼します」

ロードは電話を切り――再び眠りについた。

 

――――日曜日。

昼過ぎに起床。

腹が減ったので、寮の2階の食堂へ。

その後、1階の大浴場へ。

部屋に戻ったら、再度就寝。

 

――――月曜日。

まだ体調が崩れているロード。

日勤の開始時刻1時間前の早朝に、再び部隊長に欠勤の電話連絡を入れた。

「お前が休むから、みんな心配してるぞ?心配をかけるな」みたいなことを言われたが、休む意思をしっかり伝えた。
(”みんな” って誰だよ?心配しているのは、俺という労働力が減ってしまうことだろ?)

ロードは、再び眠りについた。

 

――午後3時。

目を覚ましたロードは、ゆっくりと起き上がる。身体が、ずしっ、と重い。

土曜、日曜、そして今日の午後3時まで、2日間以上ずっと寝込んでいたロード。

すっかりなまった身体を動かすために、私服で寮の近所を散歩している。

鬱蒼とした樹々に囲まれた散歩道を、無心で歩く。

樹々の間から、温かい太陽光が差し込む。
空気が澄んでいるのが、わかる。
ちゅんちゅん、と 小鳥のさえずりが聞こえる。

年季の入ったベンチに座り、ぼーっと、してみる。

”…………………………………………………………”

今まで欠けていた何かを、取り戻している感覚。

 

なんとなくスマホを取り出し、全異世界で普及している動画サイトWe Tubeを見る。

「神隠しにあった女性は!
神が生息している高次元の異世界と交信できる!

そして、高次元の異世界にも、我々が普段 利用しているWe Tubeの様な動画プラットフォームがあり、そこでVTuber(バーチャルWe Tuber)として活動している!
そして、この世界と自由に行き来できるんですよ。

VTuberという業界は――我々が認識できる無数の異世界の人間と、我々が認識できない高次元の異世界の人間が 入り乱れてごっちゃになってるんですよ。
We Tubeで活動している あなたの推しVTuberは、実は高次元の人間かもしれない!

信じるか信じないかは――」

……荒唐無稽な内容だ。

到底信じられないが、フィクションとして、娯楽として楽しんでいる。

勇者としての激務に追われていると、休日も雑務と回復だけで終わってしまう。

自分の時間を楽しむことなど、できなくなっていた。

だけど今は……娯楽を楽しむことができる。

 

しばらくして、ナーロッパ市の繁華街にも行ってみた。

1週間分の食糧を買いだめするために毎週日曜日に訪れていたが、その光景は普段と全く違って見える。

――全体が円形の高い城壁で囲まれた、この街。

中央に鎮座する聖堂。
人々の憩いの場である、綺麗な噴水。
白い壁に木の骨組みという、味わい深く統一感のある建築物。
馬車が行きかう、石畳のメインストリート。

”ナーロッパって、こんなに美しい街だったんだな”

数か月も過ごしていたのに、まるで初めて訪れた様だ。

ただ散歩しているだけなのに、幸福感に包まれていく。

ロードの顔には、穏やかな表情が浮かんでいた。

 

 

数時間の散歩を終えたロードは、寮に戻った。

下駄箱で室内用の上履きに履き替え、寮のロビーへと歩を進める。

そこで、見覚えのある男と目が合った。

「あ……ども……」

ロードが、気の抜けた挨拶をした、その男。

……無表情で近寄りがたい雰囲気をまとう、先輩勇者クロス・スロウド……

いや、先週の金曜日で退職したので、現在は無職……勇者ではない。

私服だ。受付で退寮の手続きをしている様だ。

 

その男は、明らかに疲労が溜まっているロードの姿を見ている。

そして、口を開く。

「……少し、話できるか?……夕飯、俺が奢る」

 

2人は寮のすぐ近くにある飲食店にいた。

「好きなモンを頼め」と言われたが、遠慮して安価な食事を頼もうとするロード。

その姿を見て、クロスは高いステーキ定食を頼んでくれた。

「ここのステーキ定食は美味い。
注文から時間がかかるが、明日は休日だから、気にする必要はないだろう」

「……ありがとうございます」

緊張した面持ちで礼を言うロード。

ロクに会話したこともない自分に、わざわざ食事をおごってくれる意図がわからないからだ。

 

クロスは、運ばれてきたブレンドコーヒーに口を付けた後、ゆっくりと口を開いた。

「お前……あの職場、どう思う?」

クロスの質問に、ロードは重い口を開いた。

「……正直、身体もメンタルも すごく辛いです。
僕、土曜日から今日まで ずっと寝込んでましたし」

「……で、回復したらまたあの職場に行くのか?勤め続けるのか?」

「………………………。
あの、僕って、あの職場で…………

……共通の敵にされてますか?
他の人の陰口のターゲットにされてますか?」

「…………………………ああ、されてる。結構な頻度で陰口を叩かれてる」

「………………やっぱり」

ロードは、どこか達観したような表情を浮かべた。

その表情を見て、クロスは言葉を続ける。

「俺は今も昔も、職場では1人で過ごしている。

ただ、今と昔で違うのは……昔は、職場の人間に対して 細部まで気を遣っていた……という事だ。
自分がされて嫌なことは決してせずに、誰に対しても敬語で、”さん付け” で 話していた。

……その結果、今のお前みたいな扱いを受けることが少なくなかった」

クロスは、どこか諦めた様な表情を浮かべている。

「もちろん、しっかりと誠意で応えてくれる人も少なからずいる。
だが、優しさに悪意で応える人間が、どんどん寄ってくるので、体感的には大多数の人間がクズだと感じてしまう」

”この人、無口なタイプだと思ってたけど、饒舌な一面もあるんだな……”

ロードはそんな印象を抱きながら、クロスの言葉に耳を傾けて、それを咀嚼していく。

「昔は、今話してるみたいに、後輩にお前呼ばわりなんてしなかった。
だが、優しくして1回調子に乗らせると、対処がものすごく面倒臭くなる。
だから、予め回避するために威圧的な態度を取るようになった」

 

……注文していた飲み物が運ばれてきた。ロードはオレンジジュース。クロスはブレントコーヒー。

「…………誰に対しても優しくする人は、個人的には好きだが……。

どこに行っても、善意を食いつぶすクズはいる。
自己防衛の為に、善意は相手を選ぶべきだ。

そして、悪意を善意で覆う……
例えば、これ見よがしに何度も親切にしながら、同時にジワジワと自尊心を削るような態度を混ぜてくるクズも たまにいる。
善意に対して、善意を返す際も……慎重にならねばならない。

いつも一人でいるのなら、なおさらだ」

 

「優しいですね。ただの後輩の俺に、こんな助言くれるなんて」

「……俺は優しくない。優しい人間なら、能動的に助けようとする。
俺は、お前が精神攻撃されているのを知りつつ、我関せずを保っていた。
……それを、謝るつもりも……ない。」

「…………優しさの定義は人それぞれですが……
その言葉で、なんか……少し救われた気がします」

信頼できる、深く理解し合える相手だからこそ、本音で話せることもあれば、
しがらみがないその場限りの相手だからこそ、本音で話せることもある。

そんなことを、ロードは思った。

 

「……今までロクに話した事ない相手に こんなことを聞くのもなんだが……
ロードは……これからどうする?生き方という意味だ」

「……しっかりと、考えたこともないです。ただ、この異世界で働き続けるのは、無理です。
また、別の異世界に行って働くしかありません。
……勇者として」

「……知ってるか? 勇者たちが働いている無数の異世界の構造を。
……つまり、”異世界の真理” について」

「いえ、まったく知りません。魔王が討伐禁止なのは長年の疑問ですが」

「魔王ってのは、”異世界の神” だ」

不可解な表情を浮かべるロードを見て、さらに口を開く元先輩勇者。

「今から話すのは、都市伝説の範疇を出ない噂だがな……」

 

――勇者を雇っている異世界は、総数50万に及ぶ。

同じ言語圏に限定した場合は、だ。

他言語圏の異世界も合わせると、総数750万もの異世界で、勇者が働いているのだが……。

それら膨大な数の異世界すべてに魔王がおり……”神” としてその異世界を管理しているというのだ。

「まあ、こんなこと、思考停止している職場の人間には、話さないがな。
変人扱いされて 面白おかしく陰口のターゲットにされるのがオチだし」

クロスは、続ける。

その都市伝説を、ロードに聞かせる。

一部の勇者たちの間でまことしやかにささやかれる都市伝説を。

 

――――魔王は、つまり神は……他の異世界を統治する神に接待して、案件を受注している。

その案件内容は、上流工程で多数のタスクに分解される。

そして、『1つのタスク=1体の雑魚モンスター』として可視化され、下流工程へと流され……襲い掛かってくる。

 

勇者たちは、各雑魚モンスター(1タスク)を、あらかじめ指定された武器で倒すのだが……

その武器は、生成AIアプリと常時接続されている上、生成AIに指示する呪文 ”プロンプト” が内蔵されているのだ。

1武器に、1プロンプト内蔵。

Aタイプの雑魚モンスター、つまりAタイプのタスクには、それに対応するプロンプトが伝説の剣に内蔵されている。

……つまり、指定の武器でモンスターを攻撃することが、タスクに対応したプロンプトを投げることになる。

すなわち、
「モンスターを武器で攻撃=生成AI利用でのタスク処理」なのだ。

 

そして、討伐されて消滅した(様に見える)モンスターは、次の工程に流されて別タイプのモンスターとして可視化され……

再度、勇者の武器攻撃……つまり、再度の生成AI利用で更にブラッシュアップされる。

複数回のブラッシュアップを経て、ある程度 仕上がったら、部隊長がチェック・修正。

神がそれを最終確認して、別の異世界の神に……つまり、クライアントに納品するのだ。

 

そういうシステムをどこかの異世界の神がはじめて、他の神もパクった……のではないか、と言われている。

つまり、
無数の異世界の神同士は、お互いに密接に関係しあい、巨大な経済圏を形成している……と、噂されているのだ。

 

そして、労働条件という視点から、クロスは話を続ける。

――勇者は、『1タスクに、1プロンプトを投げる』という作業の要員として雇われる。

とうぜん、単純作業で誰でもできるので、転職市場において勇者の労働条件は薄給激務が相場となっている。

 

しかし、プロンプトを生み出すエンジニアは、現時点では高給だ。

生成AIの爆速進化に対応して、呪文を生み出し続けるプロンプトエンジニアは、腕が良ければ高給取り。

好待遇で定時退社。福利厚生バッチリ。

何故なら、誰でもできる仕事ではないから。

常に最新情報を学び続けることが、継続的な努力が必要だからだ。

 

だが、腕が特別良いわけでもないプロンプトエンジニアは、さほど好待遇というわけでもない。

……また、腕が良いプロンプトエンジニアであっても、将来安泰とは言えない。

結局は、”プロンプトを生み出す” という仕事も、いずれ生成AIに代替されていくと思われるからだ。

 

そして、神は……高次元にいるだけで、思考回路は、我々と同じような人間だと思われる。

「他の異世界で勇者だった時、管理職やってたんだよ。
そこもブラックで慢性化に人手不足だから、勤続2年で部隊長に昇進した。

そこで、神つまり魔王の側近から聞いた話なんだがな――」

 

――神は、普段は側近に テキストメッセージで命令を送っているんだが……

週に1回以上行われる役員総出の会議では、アバターでこの世界に降臨しているらしい。

そして、元側近……神に愛想つかして辞めた際に内情暴露した元側近の話によると……

神が、明らかに二日酔いでろれつが回ってない事が、複数回あったらしい。

さらに、会議中に神の身体から ”異音” が聞こえることもある。

母親らしき人物からの𠮟責が聞こえたり、
エロ動画の喘ぎ声っぽいのが聞こえたりして、

……神が急に静止、微動だにせず数分経過することもあったらしい。

 

また、神が姿を消した後も、天から神のキモイ独り言が聞こえてくることもあるらしい。

「”納期、間に合わねえよ” だの ”単価低すぎんよ” とかな」

「まるで、搾取される側の弱い立場の……人間の、愚痴ですね」

「俺も、数多くのブラックな異世界を渡り歩いてたら、そういう噂を色んな人から度々聞いた。
こういう不可解な現象は、多数の異世界で報告されている」

 

多数の異世界の神がポロリした情報は共有されていき「この世は実体のない仮想世界では?」という都市伝説の根拠となった。

そして神たちは、星の数ほどある異世界を ”メタバース” と呼称しているらしい。

そして、近年 爆発的に普及した生成AIも、実は神々がいる高次元の世界で生まれて間もないテクノロジーではないか?……といわれている。

「俺らもAIかもな。
武器が、”特定タスク特化型の生成AI” なんだから、
俺ら人間が ”汎用型の自律思考AI” である可能性も否定できない」

「僕らが……すべての異世界で生きる人間達が……AI!?」

「だから、この異世界と生物は、数年前に創られたのかもな。
神々がいる世界で生成AIが誕生した後、神々が星の数ほどの異世界、つまりメタバースとやらを創造したのかもしれん
そして生物は、過去の記憶を持った状態で生まれた……」

「”世界数年前仮説” は、都市伝説として聞いたことはありますが……
極々 個人的な意見を言わせてもらいますと……さすがにそれは無いと思います。
現実味がまったく感じられないですね……」

 

――都市伝説ってのは、面白い。

”きさらき駅” の様に……身近なところに接点がありそうな都市伝説は、特に。

多数の人間からの真偽不明の情報により、全体像が構築されていく参加型の都市伝説は、進化し続けるので、根強い人気があるのだ。

あくまで、フィクションとして楽しむべきだ……と、個人的に思うが。

「……世界一の実業家も、この世界は仮想世界である説を支持している。
ま、”信じるか信じないかは、あなた次第” ってとこだ」

元先輩勇者は、話に一区切りをつける様に ゆっくりとした動作で、コーヒーに口をつける。

 

「……まあ、異世界の構造は思考実験として楽しむに留めて、俺らは自分の生存戦略を考えるべきだ」

「今現在は、腕の良いプロンプトエンジニアが需要が高いんですよね。
でも、それすらAIに代替されることが予想されるなら……
何のスキルを学んでも、結局いつかは 同じ様にAIに代替されてしまうのでは……?」

「その通りだ。

だから俺は、常にAIに代替されないスキルを模索し続けて、学び続ける。
常にAIに代替されない市場価値の高い人材になるために、そうあり続けるために。

それまでの人生で、本気で頭を使ったことなんかロクになかったから、正直 すごいエネルギーを消費する。
限界を超えて勉強しちまって、エネルギーが枯渇、平衡感覚やらがイカれて、ブッ倒れたこともある。
だが、将来的に得るものは大きい。限界を超える価値は……ある」

 

ロードは、クロスの顔を真っすぐに見据えている。

クロスは、続ける。

 

「限界を超えたら、必ず反動が来る。

限界を超えて、何を得る?
限界を超えないと、何を失う?

”限界を超える価値が、本当にあるのか?”

それを、自分自身に問いかけて、冷静に見極めるべきだ」

 

”――説教くさくなっちまった。おれも立派なオッサンだな”

クロスは、伝票を片手に立ち上がる。

「ま、お互い頑張ろうぜ」

会計へと向かうクロスの後ろ姿と入れ替わる様に、美味そうなステーキ定食が運ばれてくる。

それを見た途端、ロードは腹が減ってきた。

 

――火曜日。
勤務開始時刻の30分前。

ロードは、職場へと到着した。

まだ他の勇者たちは、ほとんど出勤していない。

正規雇用の勇者たちの待機所であるテントへと、足を運ぶロード。

待機所の中を覗き込むと、十数名ほどの正規雇用の勇者たちがいる。

そのほとんどが、ロードが見たことがない顔ぶれだ。

待機所の端の方で……サラは、忙しそうにPCのディスプレイと睨めっこしながら、キーボードを叩いている。

 

「……サラさん、おはようございます。土曜・月曜と欠勤してすみませんでした」

「……………………んあ!?」

相変わらず目にクマを作り、ボサボサの茶髪。

「……ああっ、ロード君!おはよう!心配したんだよっ!!」

どんなに絶望的な状況であろうと、サラは……微笑みを絶やさない。

 

……この人を、救いたい。

この職場にいたら、この人の人生は壊されてしまう。

「お話、よろしいでしょうか?」

 

――どこまでも続く草原に、ロードとサラは立っている。

吹きぬける爽やかな風が、2人の身体を撫でる。

澄んだ青空の下……ロードは口を開いた。

「俺、退職しようと思います。
……30日後に」

「え…………?」

サラは、呆然とした顔で……ロードを見据える。

「なんで……急に言われても……」

「俺は、市場価値の高い人材になりたい。
だけど、この職場では、エネルギーをとことん搾取されてしまう。
プライベートの時間に、スキルを身に着ける気力もなくなるほどに」

「なんで……今まで一緒に頑張ってきたじゃない!
途中で辞めたら……逃げたら……一生 逃げ続ける人生になるよ?」

「この職場は、この異世界は……あくまで生活の為のお金を得るための手段です。
自分の人生を守るには、給与以上の働きをしてエネルギーを過剰に消耗すべきではない。
そして、待遇が改善されないなら……堂々と逃げるべき、転職すべきです」

「私……ロード君のこと……」

その言葉を聞いて……ロードは、決意する。

「……サラさん、俺は……激動のこの時代に、スキルを学び続ける。
何が正解なのかは、結果が出るまでわからないけど、
それでも闇の中を手探りで、前に進み続ける」

「……………………」

「だから、サラさん。この職場を辞めませんか?」

”……言え。「俺と一緒に、この地獄を脱出しよう」と、言え!”

脳内での激しい葛藤の末、最後の一言を喉から絞り出そうとするロード。

 

――――絶望の世界で、あなたに出会えた。

真っ暗な俺の人生に、光が灯った。

あなたがいるから、俺は限界を超えることが出来た。

そして、これからも――――

 

突如、サラの顔に……恐ろしく冷たい表情が、浮かぶ。

”使えねーな、コイツ” と言わんばかりの、故障したスマホを見るような表情。

「え……………?」

ロードは、目を丸くした。

「はあああああ、わかった。
あと30日間、しっかり働いてね」

頭を掻きながら、眉間にシワを寄せながら、そっぽを向きながら……

サラは、正規雇用の勇者たちの待機所へと戻っていく。

戻っていくとき、舌打ちが聞こえた気がしたのは、気のせいだろうか?

 

……ま、そりゃそうだ。

今までの俺じゃあ、便利な労働力として、ストレスの捌け口として好きになってくれる人は多数いても……人間性を好きになってくれる人は、ほとんど いないだろう。

また、新人勇者という労働力が入ってきて、サラは その労働力たちに優しくするんだろう

そして、サラさんは この職場で、一生 便利な労働力として搾取され続けるんだろう。

最終出勤日まで、気まずいなぁ――

 

――どこまでも続く草原。

吹きぬける爽やかな風が、俺の身体を撫でる。

青空を見上げれば、4つの星が浮かんでいる。

白い太陽。

赤い惑星。
青い惑星。
黄色い惑星。

美しい光景だ。

壮大なロマンを感じる。

 

絶景だ。

心が照らされていく様な感覚を覚える。

世界は、多数の異世界は――無限に広がっている。

 

世界の真理など、俺にはわからない。

わかったところでどうしようもない。

だけど――

 

――強くなろう。

職場の為、神の為ではなく――自分の為に生きられるくらいに。

ロードの顔に、吹っ切れたような表情が浮かぶ。

 

何もしなくても、時間は過ぎていく。

命という資源は、減り続ける。

 

――――ならせめて、精一杯もがいてみようか。

 

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