スーパーアリオとヒーチ姫(地上最強)とグッパ大王の日常

 

「きゃあああああ!アリオ!助けてぇぇぇぇ~」

「グッパめ!待てぇ~!」

「グパパパパパ!ヒーチ姫を還してほしくば、グッパ城まで来るがよいッ!」

グッパとヒーチ姫を乗せた小型飛行船は、ぐんぐん高度を上げていく。

小型飛行船から見えるアリオの姿がどんどん小さくなっていく。

 

いつも通りグッパに攫われた麗しの美女。

マッシュ王国の国家元首であるヒーチ姫だ。

ヒーチ姫は、アリオの姿が見えなくなるまで、必死で助けを求める……演技をしていた。

 

――アリオの姿が見えなくなった。

その瞬間、ヒーチ姫の目つきが鋭く豹変した。

「……おう、グッパよ」

グッパの巨体が、びくん、と 震える。

「……何か!?」

「”何か!?” だとぉっ!! 」

ドスを利かせた声で、ヒーチ姫が凄む。

「 ”前回” も言ったよな……」

「ひっ……」

「7分遅刻!時間厳守!”依頼” した内容は守れやぁぁ!!」

 

――マッシュ王国の首都マッシュタウンから、小型飛行船で数時間の所にある暗黒の魔城・グッパ城。

その城内に、怒号が響き渡る。

「もっと快適にもてなせや!スイートルームを手配せんかいっ!
こちとら大金払っとる依頼人様やぞっ?我慢の限界じゃあぁ!!」

ヒーチ姫を幽閉しているラグジュアリールームから、ヒーチ姫の怒号が響き渡っている。

「もう私をアゴで使うのやめて!
『そろそろ攫いに来いや』って、昨日の夕方に急に言われても困るのよ!」

「それを了承したのは、どこの誰や!?」

「断ったら、力づくで首を縦に振らせるじゃない!
あなたは、ヒーチ姫は――”地上最強” なんだから!」

 

「やかましいっ」

ヒーチ姫は、ふおん、と軽く右腕を振った。

-ズドォン!-

グッパ城の強固な壁に、ヒーチ姫の正拳がめり込み……ピシッ、と 壁に大きな亀裂が入った。

「ひいいいいいい」

グッパが、悲鳴を上げる。

 

怯えるグッパを尻目に、ヒーチ姫はラグジュアリールームのドアを、どかっ、と蹴飛ばして開けた。

……というか、ドアが 数十メートル吹っ飛んだ。

「わかった!最上級のスイートルームを用意するから!」

懇願するグッパを尻目に、ヒーチ姫はロビーへと歩を進める。

そこで、前回攫われた時はなかった巨大な物体に目をつけた。

「――おっ、なんやこのオブジェ、お前さんの銅像かい」

ヒーチ姫は、正拳突きの構えを取る。

ふおん、と軽く右腕を――

「やめて!それは子グッパたちからの誕生日プレゼント……」

ぴたっ、と ヒーチ姫の動きが静止した。

瞬間、風が吹き荒れ、グッパは仰向けに倒れた。

正拳突きを中断した影響で、ヒーチ姫の周りの大気が激しい衝突を起こし……強い突風が巻き起こったのだ。

「……そうか。それは大切だな。いい配下を持ったな」

「……………………………………」

”何よ!さんざん恐怖を植え付けた後、これ見よがしに優しさアピール?
その手は、食わないわよ!この……悪魔め!”

 

――グッパ軍団は、平和に暮らしていた。

グッパ軍団が統治するクッパ帝国は、財政もそれなりに上手く回っていた。

広大な国土に、バラエティ豊かな観光地。

そして、あちこちに安全面に配慮したアトラクションを設置して、全世界から観光客が訪れる平和な国だった。

もちろん、最大の観光地は このグッパ城。

城内には宿泊施設も完備されており、グッパ軍団総出で観光客たちを最高の笑顔と気遣いで、もてなしていた。

グーゴルマップでのレビューも、5ツ星と感謝のコメントが溢れており、世界屈指の観光スポットとなりつつあった。

グッパ帝国の未来は、夢と希望に満ちていた。

 

――隣国・マッシュ王国の国家元首であるヒーチ姫が……極めて個人的な侵略を開始するまでは。

数年前の、ある日。

一升瓶を片手に、入国していた不届き者がいた。

そして、グッパ軍団配下の数名に因縁をつけて絡んで、ケガを負わせた。

サングラスと帽子を被っており、その顔はわからなかった。

それを皮切りに、その不届き者たった1人が原因で グッパ帝国の治安が急激に悪化していった。

観光客たちはどんどん少なくなり、財政は みるみる傾いていった。

グッパは、グッパ帝国の国家元首として、グッパ軍団の長として、この国と国民を護るために動かざるを得なかった。

 

やむなく、不届き者を的にかけた。

最精鋭の子グッパ達を筆頭に大勢の配下たちが、不届き者を武力制圧しようとした。

だが、そのことごとく が返り討ちにあった。

そして、不届き者は……直接このグッパ城を急襲してきた。
(一升瓶を片手に)

私は、1対1の決闘をして――けちょんけちょんに負けた。

手加減された軽いジャブ1発で、全治6か月。

そう、その不届き者こそが――ヒーチ姫だったのだ。

 

そして、ヒーチ姫との和平条約。

”マッシュ王国・国家元首”としてのヒーチ姫ではない。

”個人” としてのヒーチ姫……本名・”ヒーティッド・レイザー” という一個人と、和平条約を秘密裡に結ばざるを得なかった。

結果、ありとあらゆる不利な条件を飲まされた挙句、多額の借金漬け。
(ついでに、アリオの前ではキャラ付けの為に、珍妙な笑い声を強制されている)

なので、ヒーチ姫の命令を 全面的に聞かざるを得ない。

……こんな情けない事実、配下に知られたら、私は……

 

――そして、ヒーチ姫に逆らったら、このグッパ帝国を、国民を護れない――

ヒーチ姫は、最上級のスイートルームの中で、グッパを恫喝し続ける。

「ウチ個人への借金を減額の上、必要経費込みで依頼料たっぷり出しとんやろがい!
何に使ったんや!おう?」

「ごめんなさい!グッパ軍団も財政難で!
……そもそも あなた、マッシュ王国国民の血税を私的流用……」

「ウチの私財!ポケットマネー!!公金にはビタ一文 手ぇつけとらんっ」

両膝を付いてうなだれるグッパの両目に……涙が滲む。

「債務不履行や。お前さんへの依頼料は――大幅減額させてもらうで」

「そんな……クッパ城の維持費や、膨大な人数の配下の人件費が払えないわ!」

「知ったことか!ウチは、お前さんのオカンやないでえ」

 

-コンコン-

スイートルームのドアをノックする音が聞こえる。

ヒーチ姫は……怯えている演技をする。

その姿たるや、儚げな美しさを全身に湛えている。

このヒーチ姫を見て、”守ってあげたい” と思わない男性など、地球上に いないであろう。

”こ……この女っ…‥”

 

「――入れ」

グッパは、毅然とした態度で応える。

「失礼します」

グッパ軍団の古参の配下、トンカチブロスが入室した。

「何事だ」

「報告致します。
我がグッパ軍団の財政が、危機的状況です。
このままだと、来月末には――運営費が底を突くと思われます」

「うむ。了解した。
一時間後、緊急会議を開く。
幹部連中に伝えておいてくれ」

「承知致しました……」

トンカチブロスは、ふと、ヒーチ姫に目をやる。

そして、何かを言いたげな表情を浮かべる。

「…………どうした!?」

「いえ……失礼します」

静かにドアを閉め、去っていくトンカチブロス。

 

ヒーチ姫は、煙草に火をつけている。

「…………ねえ!聞いた?ホントにヤバいの!
お願いだから、次回からちゃんと気を付けるから……」

再び懇願するグッパ。

ヒーチ姫は、煙草をふかしながら、険しい表情を浮かべている。

”グッパ軍団が崩壊したら、以後の依頼ができなくなる。
……代わりを探すのは、とんでもない手間がかかるな”

「しゃあない、依頼料は満額払ったる。
半額、前金として今 振り込んだる。
残りは、任務完了後に振り込むで。

これは ”貸し” や。
ええ仕事せんと……許さんでぇ?」

ヒーチ姫は、スマホでネットバンキングにアクセス。
個人口座から、グッパ軍団の口座へと入金する。

「あ……ありがとう……」

これで、急場は凌いだ。

だけど、しっかりと立て直さないと、長くはもたない。

そのためには、このグッパ帝国を侵略しようとしているヒーチ姫を、なんとかしないと……

私は、グッパ軍団の長として……みんなを護る!

 

――1時間後、会議室。

「このグッパ城および、子グッパ様各位が管理する砦における マグマの光熱費が、膨大な金額に……」

「グッパ帝国全域に配備している反重力装置の1/5が、耐用年数を超えつつあり、修理もしくは買い替えの必要性が……」

「甲羅を投げたら跳ね返ってくるのは 安全面から懸念があると、数少ない観光客からの声があります。安全装置の導入を……」

様々な議題が飛び交う、緊張会議が開かれている。

 

この緊急会議に出席しているのは……

総帥・グッパ
軍団選りすぐりの最精鋭・7人の子グッパ達
長年の経験を有する重鎮・ドゥッスン
司会進行を務める魔法使い・ガメック
……あと、姿を消して盗み聞きしているオバケ・デレサ

いずれも、グッパ軍団の中核を成す そうそうたる面子である。

 

……山積みの課題に対して、グッパは険しい表情を浮かべている。

その姿は、威厳に溢れている。

ゆっくりと、しかし力強く……口を開く。

「うむ。了解した。

……先程、とある方と商談をしていた。
そして、私が一人で回している……とある案件がある。
その前金として、報酬額の半分を、先刻 振り込んでいただいた。

――これで、急場は凌げる」

 

会議室に、どよめきが起こった。

「グッパ様……」

「未曽有の危機が続くこの帝国は、総帥のおかげで なんとか崩壊を免れています」

「この国が、急速に治安悪化して財政が傾いてから、ずっと懸命に努力されているのを、我々は知っています……頭が下がります」

そう 私は、グッパ軍団の総帥として、グッパ帝国の総統として――

この国を護らなければいけないのよ。

あの悪魔――ヒーチ姫から!!

そして――

 

-ドオオォン!-

――遠くから、砲台の音が鳴り響いた。

物凄い勢いで、この会議室に向かってくる者がいる。

「――会議中、失礼します!」

配下のマグナムギラーだ。

マグナムギラーの背中に 観光客を乗せて行われる ”グッパ帝国周遊ツアー” は、観光客が激減した今でも、未だに根強い人気がある。

「緊急連絡!
アリオが、グッパ城に侵入しました!」

 

マグナムギラーの報告を聞いた、グッパ。

この時を待ちわびたかのような表情で、雄々しく声を張り上げる。

「大至急、アリオ専用の応接間のマグマを加熱せよ!」

 

そして、配下たちは、意を決した表情で……グッパに言葉を投げかける。

「グッパ様……我々は、グッパ軍団の配下たちは……既に知っています。」

「…………!?」

「あなたが ”本当に勝ちたい相手” が、誰なのかを」

「なんだとッッッ…………!?」

「しかし我々は……あなたの男気に惚れています」

「……じゃあ、いままでずっと……配下たちは気づかないフリをしていた……!?
私は、配下たちに気を遣わせていたのか……!?」

 

「それに気づかないなんて……私もヤキが回ったものだ……」

グッパは、ゆっくりと立ち上がる。

「……………………!」

グッパ軍団の配下たちに、緊張が走る。

 

グッパは、静かに会議室のドアを開ける。

眼前には、数百にも及ぶかけがえのない配下たちが、整列していた。

グッパの顔には、長年の呪縛から解放されたかのような、晴れやかな表情が浮かぶ。

それを見た、グッパ軍団の士気が上がっていく――。

 

”――あんな奴に、負けたくないッッ”

グッパは……グッパ軍団の総帥として、グッパ帝国の総統として、吠える!

「迎え撃つわよっ!!」

配下たちから、この時を待ちわびたかのように、雄叫びがあがる!

「おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

グッパ軍団は、グッパ帝国は……今、ひとつになったのだ。

 

ヒーチ姫は、腕を組み 壁にもたれかかりながら、満足げな笑顔を浮かべる。

そして、どんな立場から言っているのか よくわからない言葉を発する。

「――いい面構えに なったやないかい。

それでこそ、アリオの永遠のライバルや」

 

――ヒーチ姫は、可憐なお姫様になりたかった。

しかし……たまたま地上最強に生まれてしまった。

悲劇。

書道では、摩擦熱で発火。
茶道では、竜巻を形成。
華道では、手が滑って、数百メートル先の執事に華の枝が刺さって、重体に追い込む。

生まれながらの破壊者。

周りの従者たちは、恐れおののいた。

ヒーチ姫は、年相応に はしゃぎたい自分を抑えて……できる限り清楚にふるまった。

だが従者たちは、ヒーチ姫を頼もしい漢の様に扱った。

 

――ヒーチ姫は、自分の運命に絶望した。

身分を隠して街をブラつく毎日。

毎日、10箱の煙草を吸い、1日30リットルの酒を飲んだ。

とにかく、意識を朦朧とさせて、絶望から逃れたかったのだ。

それでも、地上最強なので……常に意識は鮮明だった。絶望感から逃れることはできなかった。

 

ある日。

紆余曲折なんやかんやあって、誰もが涙するであろう感動的な経緯を経て
――とある配管工と出会った。

配管工は、夏は暑く冬は寒い、過酷な仕事だ。

地上最強のヒーチ姫ならいざ知らず、常人には とても辛いに違いない。

だが、その配管工は、汗と重油にまみれた その配管工は
――笑顔で、人々の生活を支えていたのだ。

”……なんて、頼もしい漢なんだろう”

アリオと名乗る配管工を見つめるヒーチ姫の表情は、可憐なお姫様そのものだった――

 

 

――グッパ城の最深部。

赤く湧きたつマグマの上に、反重力装置で浮いている直径30メートルほどの小島。

……アリオ専用の応接間だ。

小島の中央で、グッパはソワソワしながら仁王立ちしている。

 

天井からは、ヒーチ姫を閉じ込めた牢が吊るされている。

ヒーチ姫は、肘をついて寝そべりながら 一升瓶をラッパ飲み。

勢いよく ヒーチ姫の口へと注ぎ込まれるのは……
クッパ帝国の名産品である地酒だ。

厳選された原料。こだわり抜いた製法。高品質なのに手頃な価格。
それゆえ、根強いリピーターも多い逸品。

牢の中には、そのラベルが貼られた大量の一升瓶がズラッと並んでいる。

ヒーチ姫は、飲み終わった一升瓶をマグマにポイ捨てして、次の一升瓶に手を伸ばしながら、口を開く。

「おう、ショボい戦いモン見せてウチを退屈させたら……わかってるよな?」

「わ、わかってるわよ!集中したいから、邪魔しないでよ!」

 

――突如、アリオが、満を持して登場した。

”……来たわね。私の永遠の……”

ヒーチ姫は 焦りながら、一升瓶23本をマグマに蹴り落とす。

そして、かよわい声で叫ぶ。

「アリオ、助けてええええ~」

大粒の涙を流しながら、アリオに助けを求めるヒーチ姫。

”……こ、この女ッッ…………”

 

アリオとグッパ、両者の視線が交錯する。

アリオの視線から、その精神性を見て取れる。

どんな想いで冒険を重ねて、今 この場に立っているのか。

 

――ヒーチ姫が攫われた あの時から、どれだけの時間が経っただろう……。

3時間ちょいかな。

長い冒険を経たアリオは、万感の思いで、グッパの前に立っている。

相対する両雄。

「グパパパパパ!よくぞ ここまでたどり着いた!」

「グッパめ!いまこそ長き因縁に……決着をつけよう」

「アリオよ!来るがよい!!」

「グッパ!いくぞ!!」

「うおおおおおおお!×2」

アリオとグッパ、全存在をかけてのコミュニケーションが、展開される――

 

――激闘の末、最後に立っていた者の名は……アリオ。

「アリオ……来てくれたのね……!」

ヒーチ姫は、温かい涙を流しながら、アリオに駆け寄る。

アリオは、ヒーチ姫を優しく抱き留める。

美しく抱きしめ合う2人を包み込むように、どこからともなく聖なる光が降り注ぐ。

「ご無事でしたか……!?」

お姫様願望が、数か月ぶりに満たされていくヒーチ姫。

「私の、麗しの姫君よ」

 

…………ああ。

私よりメッチャ弱くて
背が低くて
メタボ体型で
顔の面積が異様にデカくて
ブロックを見ると脊髄反射的に叩く悪癖があって
自立歩行キノコと変なトコから生えてる花と光るヒトデばっか生で食う偏食野郎で
私よりメッチャ弱いけど

…………なんて、頼りがいのある漢なんだろう。

アリオ…………。

 

ヒーチ姫の顔に、愉悦の笑みが浮かぶ。

……アリオは まったく気づいていない。

「身体が震えている……よほど怖い思いをされたのですね……」

あまりの快感に、ヒーチ姫の全身がビクンビクンと痙攣している。

「あなたは、可憐で!儚く!気品に溢れたッッ!……可愛いらしい女性です」

ヒーチ姫の脳から、常人の250倍の量の脳汁ドーパミンがドバドバ溢れ出す。

 

”あっ……アリオ、ダメよ♡

これ以上の言葉責めは、私っ、もう――”

 

「さあ、マッシュ王国へ還りましょう」

アリオは、ヒーチ姫の耳元に口を近づけ――優しく、ささやく。

「世界一のお姫様――プリンセス・ヒーチ」

 

 

――負けた。

……また負けた。

仰向けになりながら、応接間の天井を見つめるグッパ。

「グッパ様……」

配下たちが、グッパを心配そうに見つめている。

「……もう、負けたくない……」

グッパの両目に、涙が滲む。

「あたい、もう、あんな奴……

ピーチ姫に、負けたくない。勝ちたいのよ!」

 

グッパは、すっくと 立ちあがる。

遥か遠くの空、アリオとヒーチ姫を乗せてマッシュ王国へと帰還する小型飛行船を見据える。

そして、決意を表明する。

「いつか……あたいの永遠の王子様……

アリオを……振り向かせて見せるわ!」

 

禁断の三角関係は、続く……。

 

To Be Continued.

 

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