北夕鮮との戦争が──
明日にも、今日にも、1秒後にも……起こるかもしれない。
……国衛隊全体が、ピリピリとした緊張感に包まれている。
そんな中、オウカは国衛隊の鍛錬場で、自主鍛錬をしている。
いや、”基地内で待機しつつ、軽めの調整” というべきか。
通常訓練は、中断されている。
そして、いつでも出動できる体制で待機せよ……との指令。
――戦争が始まったら、いつでも出動できるように。
オウカは、周りを見渡してみる。
眼に映る新米隊員たちの多くは、不安と恐怖の表情を浮かべている。
待機していると、ついつい これからの展開を想像してしまうのだろう。
……想像は、悪い方向へと引っ張られる。
本土に侵攻してくる北夕鮮軍との戦いで――
【死】
そんな結末を……想像せずにはいられないのだ。
”他国との戦争”
それ自体は、新米隊員たちも……1つの起こりえるパターンとして、とうぜん予想はしていた。
しかし、実感がまったく伴っていなかったのだ。
どこか絵空事。フィクション。空想上の物語……と同列に認識していた。
だが、国衛隊全体に広がる緊張感が肌を叩き続けるにしたがって……新米隊員たちも、実感せざるを得なくなったのだ。
紛れもない、現実を。
これから、他国と戦争をする――という現実を。
ふと、オウカは――母のことを思い出していた。
母が、大事にしていた愛刀を。
そして、その母の愛刀は――父親が持ち去ってしまった事も。
――母を殺したうえで!
なぜ、父は母を殺した?
母の愛刀が、目当てだったのか?
それとも――
――――オウカは、今回の任務でもペアを組むことになる。
ペアの相手は、エレナだ。
エレナと共に行動して、北夕鮮を迎え撃つのだ。
”エレナを、死なせたくない”
その想いが、オウカの脳裏で幾度となく繰り返されていた。
――数時間後。
オウカとエレナは、護国神社に来ていた。
護国神社とは、戦死した英霊を祀るための神社だ。
2人は尖閣諸島 魚釣島で戦死した――カンナの英霊を、弔いに来たのだ。
(基地内での待機をしつつ、数日に一回・数時間の外出許可も出ている)
鳥居をくぐり、石段を上がり……拝殿を視界に捉えた。
――巫女が立っていた。
白い着物と赤い袴を着て、拝殿へと続く通路を、竹ボウキで掃除している。
20歳くらいの女性だ。
こちらの視線に気づいたのか、目が合うと、巫女は微笑んだ。
そして、会釈をしてきた。
オウカは、奇妙な感覚を覚えた。
”過去に、どこかで――会ったことがある”
そして、数瞬遅れて、会釈を返した。
「――国衛隊の隊員よね。たぶん、2人共」
巫女が、2人に話しかけてきた。
「はい、そうです~。
なんで知ってるんですか?」
エレナの質問に対して、その巫女が返答する。
「私も、国衛隊の隊員。
今年から正規隊員になったの」
「同期ですね~」
「――私はカグラ。よろしくね。
ここの神主の娘なの」
「エレナです~」
「オウカです」
「――北夕鮮との戦いが、もう始まりそうね。
私は、外出許可の時には……精神統一をするために、ここに来てるけど」
相変わらず、自分がいなくても会話が成り立つなら、ほとんど会話に参加しようとしないオウカ――の脳裏に、ふと、疑問が生まれた。
「あの……戦死者の武器を弔う神社って、どこにあるんですか?」
つまり、カンナの愛刀を弔える神社は、どこにあるのか?
「この国に52社ある ここみたいな護国神社でもいいし、1社しかない靖国神社でもいいわよ」
巫女の返答を受け、オウカはエレナと目配せして、決意を共有した。
――必ず、カンナの愛刀を奪還して、弔うのだ――と。
「靖国神社には、私の ”同志” もいるの。必要なら、話を通してあげる」
「ありがとうございます。必要になったら、その時お願いします」
オウカとエレナは、カグラに会釈をして、拝殿へと歩を進める。
吊られている縄を揺らし、鈴を鳴らす。
そして、両手を合わせて――祈る。
――日ノ国の国家宗教・神道。
神社で祈るという事は――八百万の神に祈るという事……とは、思わない。
誰かが、言っていた。
”祈りとは、必ず実現させると誓う決意”
自分自身への、誓い。
神道でも仏教でも……儒教でも。
どこで、自分への誓いをしても――良いのだ。
オウカは、神社の鈴を鳴らして――手を合わせる。
神社で礼拝――という所作で行う、自分への誓い。
――オウカは、誓った。
”エレナを、絶対に死なせない”
”絶対” など存在しない――と理解しつつも、誓った。
――――日本全土の260の国衛隊基地では、20万人以上の隊員が――北夕鮮軍との戦争に備えて、待機している。
空気が、張りつめている。
尖閣諸島・魚釣島での戦争を経験した者達は、より複雑な心境であろう。
仲間を失ったばかりの者も多い。
なので、鮮明に思い出してしまうのだ。
同僚や上官を失った時の、敵に殺された時の……負の感情を。
そして、新たな復讐の螺旋が、そこから生み出されていく。
――――”忍者族を抜ける” という事の重み。
忍者族は、一度抜けたら……戻ることは許されない。
いかなる理由があろうと。
――新米忍者カズマは、霊峰・恐山の山中にある忍者族の拠点で、忍者族を抜ける意思を伝えた。
そこのお偉いさんたちに、思いを伝えたのだ。
尖閣諸島・魚釣島で、カズマが任務中に体験した事実。
そしてそれに付随する……カズマが感じた感情を、話したのだ。
話している途中、突如として――カンナ隊員の最期が、脳裏にフラッシュバックした。
それでも、なんとか平静を装って話を続けていた。
……が、突然――カズマの内側で、何かが決壊した。
堰を切ったかのように、何かが溢れ出した。
大量の水を溜め続けたダムが、水の重みに耐えきれず決壊したかのように……水が、感情が溢れ出した。
涙が止まらなかった。
話しを続けようとしても……涙の滝で視界がふさがれ、声が震えて、身体も震えた。
その後は、何を話したのか……よく覚えていない。
俺は、忍者に向いていないなぁ……と、思った。
こんな奴、合理性と怜悧冷徹さを求められる忍者には、ことごとく向いていない。
人間の持ちえるモノの中で、最大の非合理性は――たぶん、感情だ。
――結果として、”忍者族を抜ける” という意向は、受理された。
……過去にも忍者族からの脱退者も複数人いたらしい。
(15年前に脱退した者は、今も国衛隊にいる、と聞いたことがある)
あと、密かに聞いた噂では、”偽装脱退” をする者もいるらしいが――よくわからん。
そして、去年から重要度が上がっている ”銃器の扱い” の、俺への指導は――即時中止された。
……いや、そもそも――戦争で使えないハズの銃器の取り扱いを、なぜ教える必要がある?
”他国との戦争” ではなく、”国内の治安” を護るためには必要ではあるが……なぜ去年からいきなり重要度が上がっているのか?
――俺が考えても、仕方がない。
だが、同時に温情らしき措置もあった。
新米忍者である俺は、忍者族の武器術については――まだ修めていない技術もある。
忍者族の膨大な技術体系の中の一つ、武器術の中で……カズマが望む未修得の武器技術を、短期集中で教えてくれているのだ。
――今はまだ、俺は忍者族だ。
正式に忍者族を抜けるのは……戦争開始の通知が来た瞬間。
つまり……。
”北夕鮮との戦争状態が承認された” 瞬間に、俺の忍者族脱退が成立する。
……ありがたい。
もちろん、忍者族を抜けた後も、”元・忍者族” として認識され続けるわけだから、”メンツ” というモノも絡んでくるだろう。
つまり、俺への措置は――”温情” ではなく、単に ”忍者族のメンツ” の為。
また、もし俺が、忍者族への負の感情を抱いていた場合……
忍者族を離れた後に、俺が忍者族に不利益な行動を取る可能性もある。
だから、そのリスクを下げるため……去る人間には、最後に優しくしておこう……という魂胆かもしれない。
だから、最後に教えてくれているのかもしれない。
――そうだったとしても、別にいい。
忍者族の存在意義は、日ノ国を護ること。
俺に、優しくすることではない。
もし俺が、忍者族に仇成す事があれば、日ノ国に仇成すことがあれば……
――俺を殺しにかかるべきだ。
誇り高き忍者族と日ノ国の、存続の為に。
……いや、そんなん考えても――仕方ない。
だからひとまず、感謝しよう。ありがたがろう。
そして、俺は、忍者刀と各種武器術を存分に駆使し――
侍族の愛国者・タケルさんの様に、前線で戦うのだ。
”元・忍者族” の、誇りと共に。
――突如、カズマの視界に、真っ赤な文字で ”緊急通知” が表示された。
元・忍者族カズマは、それを認識。
この世に生まれ落ちた時から、今この瞬間まで育て上げてくれた忍者族に
──全身全霊の、感謝を捧げた。
――――侍族・セツナは、座禅を組んでいた。
セツナの精神状態は――静寂。
思考を、深めていた。
――私は、19歳の侍として、国衛隊に所属している。
成績は、同期の中でも、かなり優秀な方だ。
そして、二刀流剣術・二天流を共に稽古した、二歳年下の弟は――
たぶん、天性の才能を持っている。
悔しいが、二歳年下なのに……私よりも、強い。
……少しだけ。ほんのちょびっと。
だけど、お人好し なんだよなぁ。
危なっかしいんだよなぁ。
……おっと、思考するベクトルがズレている。
修正修正。
……………………――――――――
――国衛隊内部に、外国からのスパイが潜入している
忍者族から、そのように聞かされた。
一人や二人ではない、数百人~数千人はいるらしい。
さらに、日ノ国全体には、数万人単位のスパイがいるらしい。
だから、忍者族は――純日ノ国人でない者の炙り出し をしようとしている。
なぜなら、外国スパイは帰化をして日本国籍を取得。
純日本人を装い、何食わぬ顔で活動しているからだ。
だからこそ、スパイを見つけ、捕らえて――忍者族に引き渡す。
そして…… ”忍者族による尋問”
(拷問とも言う)
そうやって、スパイに口を割らせて、情報を根こそぎ吐かせる。
その後――原因不明の突然死。
死人に口なし。
無論、こんなことが売国政治家に知れたら、ここぞとばかりに叩き、日ノ国を一方的に悪者にするネタにするだろう。
だが、日ノ国の法律は、政治は――スパイに甘すぎるから、つけ込まれている。
もう、綺麗な手段ではどうにもならないところまで来ているのだ。
だから、純日ノ国人のみで構成された忍者族が、超法規的な手段で日ノ国を護らねばならないのだ。
両親がくれた教え。
「やられたらやり返せ。その為には、力が必要だ」
現時点での私が考える、この教えにおける ”力” というモノの定義。
『力=暴力の強さ×非情さ』
強い暴力を持っていても、敵にそれを向ける時には――優しさは一切不要。
その規模が、個人レベルでも、国家レベルでもだ。
(無論、強い暴力で恐怖を与えた後、仮初の優しさを行使して――相手をコントロールすることは有効だ)
やられても、やり返さないなら……。
やられても、やり返せないなら……。
相手は、さらにやってくる。
攻撃してくる。
奪ってくる。
罪悪感なく。
悪気全開で。
さも当然のように。
際限なく……奪っていく!
だから、不特定多数を――性善説で考えてはダメなんだ!!
……まずは、性悪説で考える。
そして、信用できそうな相手と判断したなら、その相手に対してのみ、徐々に性善説で考える比重を上げていくのだ。
――幼少期より、人を疑ってかかってきた。
態度に出すにせよ、出さないにせよ、人を疑ってかかる事を心がけてきた。
人を疑わない奴。
そして、そいつから……尊厳などを根こそぎ奪う奴も見てきた。
そんな奴らを、反面教師にしてきた。
人を見分ける眼は……たぶん、人より肥えてる方だと思う。
――セツナは、人間の心を、直感で理解する事に長けていた。
……人は、無意識に膨大な情報を、垂れ流し続けている。
表情。
目線。
顔の角度。
姿勢。
位置取り。
目線。
声のトーンや大きさ。
話すスピード。
精神の緊張。
身体の緊張。
それらのタイミング。
それらの何気ない仕草の中に、普通なら見落とす膨大な情報が詰まっている。
それらの中の膨大な情報を、セツナは直感的に、深く、高精度で――感じ取れる事が、多々あるのだ。
何気ない会話内容の、裏の意図を感じ取れてしまうのだ。
心理学の類など習ったことはないが、体感的に理解していた。
いや、彼女の場合は、むしろ心理学の理論を学んだ場合……逆効果にも成りうる。
理論は、直感を補強するツールにも成りうるが、直感を妨げるノイズにも成りうるのだ。
無論、スパイも気取られない様に、隠す演技を怠らないだろう。
だが、演技は……疲れる。
ボロが出ない様に、矛盾がないように、疑われない様に。
それを常に考えてふるまっていたら……ジワジワと、少しずつ疲労が溜まるだろう。
そして、いずれボロを出す。
少なくとも、ボロを出す確率が上がる。
――スパイは、どんな人格を演出するだろうか?
無口で、クールなキャラか?
人懐っこい、おしゃべりキャラか?
真面目で、実直なキャラか?
それとも……?
……いや、やめよう。
私の場合は、自分の直感を信じよう。
”自分の直感を信じる” という判断自体が正しいのか、否か?
長所を、より深めているのか?
視野を広げることから、逃げているのか?
それも少し考えたが、やめた。
結局は―― ”自分の直感を信じる” と、直感で決めた。
どちらが正しいか なんて、同じ人生を二回生きなければ、絶対に答えは出ない。
(二回目を生きている時は、一回目の記憶を全消去した上で、だ)
それならば、悔いのない選択をすべきだ。
――スパイの目星がついたら、とりあえず質問攻めにしよう。
どんな質問が良いかはわからないが、直感的に、感覚の赴くままに質問しまくろう。
そこで、判断できる可能性は……充分ある。
自分がされて嫌な事を、自分の愛する人(恋愛的な意味ではない)にはしない。
敵に対しては……真逆!
敵の嫌がる事を、これでもかと、徹底的にやるのだ。
”スパイは、私が必ず――見つけ出す”
──ベルト型Wi-Fiマイコンが、振動した。
(緊急通知など重要情報が視認されない時、それを知らせる為に振動する)
セツナは、静かに両目を開いた。
――セツナの視界に、真っ赤な文字で ”緊急通知” が表示されていた。
大きく息を吸い、長く息を吐く――精神を、統一していく。
そして、太刀と小太刀を手に取った。
――――侍族・ヤマトは、昂っていた。
精神が、感覚が、神経が――今にも暴れ出そうとしているのを、感じていた。
尖閣諸島・魚釣島で部隊長として指揮を執り――そして戦死したマキさん。
マキさんと戦った ”ヨハン”
戦闘終了後に襲撃して、マキさんを殺害した ”ボブヘアの女”
この2人への復讐。
それを成し遂げる瞬間を、何度も何度も何度も何度も……思い描いてきた。
そして、それを実現するため――俺は以前よりも、過酷な鍛錬を積んだ。
今回も、俺は単独での行動を希望して……受理された。
(俺と同じく、侍族のサキョウさんも、いつも通り単独行動者らしい。
まあ、あの人について行ける隊員など……ほぼ、いないだろう)
――ヤマトの眼が見開かれた。
その視界に、真っ赤な文字で ”緊急通知” が表示されたからだ。
[〈重要〉日ノ国と北夕鮮は、全面的に交戦状態と承認されました]
黒い炎が、メラッ、と灯る。
復讐心・殺意・暴力衝動が、燃え上がる。
原初の獣性が、理性という檻から解放される。
――ヤマトは、愛刀・ ”無鳴” を手にしながら――その口元が、微かに笑った様に見えた。
■戦争ルール(国際条約制定)
・ARレンズ装着の上、参加
敵=赤マーカー表示
味方=緑マーカー表示
(※視界の外にいる者には、マーカーは表示されない)
・対象者が死亡すると、マーカーは消滅
・戦闘員以外には、マーカーは表示されない
・冷兵器(=火薬や爆発力を利用しない兵器・武器の総称)のみ使用を許可
※レーザー・電撃・空気銃等の代替策 および 化学兵器も一切禁止
□補足情報
・マーカーは両者に同じ色が表示される
(AのARレンズに、Bに赤マーカー表示
=BのARレンズに、Aに赤マーカー表示)
・戦闘への参加権利があるのは、登録された者のみ
・移動手段は、申請・登録された軍用車・軍用機・軍用艦に限定される
・複数の第三国が、公平性を担保
――――オウカとエレナは、その通知を受信した。
護国神社の参拝を終えて基地へと帰ってから、数十分後のことだった。
2人は、同時に装備を整えはじめた。
日ノ国刀を腰に携える。棒手裏剣を手甲(軽量の革製腕カバー)に納める。
――オウカは、カンナとペアを組んだ時の事を思い出していた。
尖閣諸島・魚釣島で、カンナとペアを組み、共に戦い、別行動をして……そして、今生の別れ。
力なく横たわるカンナの遺体を見て、自分の判断を悔やんだ。
だが、結果論なら、結果が出た後なら、なんとでも言える。
何が起こるかわからない不測の事態では、あの判断が一番期待値が高かった……と思っていた。
――だが!
よくよく考えたら、その考えは間違っている。
私が……あの場で敵兵全員を倒せば、別行動を取らなければ……カンナは死ぬことはなかった。
カンナと行動を共にし続けることが、カンナ生存の期待値が最も高かったのだ。
――北夕鮮との戦いで、エレナを死なせない為には、別行動を極力取らないこと。
”少しずつ潜在能力を開花させていく” という体で、国衛隊の訓練でも少しずつ強さを解放してきた。
以前よりは、実力を出しても疑われるリスクも少ないだろう。
つまり、
――肝心要の状況においては、”低く偽った実力” を積極的に解除すべきだ。
――オウカは、エレナに視線を移す。
エレナは、静かに、迅速に……戦闘準備を整えている。
日ノ国刀を腰に携え、棒手裏剣を手甲に納める。
エレナは、国衛隊での成績は――私の ”低く偽った実力” と同じくらいか、少しだけ上だ。
むろん、エレナの実力も少しずつ向上している。
だから!なおさら!!
私も、実力を解放しても、スパイとはバレない――だろう。
そもそも、実力を解放しなくてはならない場面ということは、エレナが死の危険に直面している時だ。
そんな時に、私の戦闘を見ている暇などはないだろう。
仮に、エレナが致命傷を負って倒れて、私が一人で戦う場面になっても――
そんな精神状態では、正常な判断は難しい。
心神喪失による錯覚だと、誤魔化せる!
本気を出したら、敵軍に警戒されるリスクが跳ね上がるが……。
今回の戦いでは、以前とは明確に違う事がある。
――オウカの視界に、2つ目の通知が浮かび上がっている。
[〈重要〉敵兵の殺害を、全面的に許可する]
最初から、敵兵の殺害許可が出ている。
口封じできる!
つまり、実力を解放して、敵兵に警戒されたとしても……。
その場で……敵兵を殺害すればよいのだ。
――エレナを、死なせないために。
――国衛隊隊員たちが、情報課から命令されていることは、言わずもがな。
”北夕鮮軍を迎撃せよ”
隊員達は、情報課からの指示に従って行動する。
また、日ノ国全土の多数の上官たちが、現場の状況に応じて 指揮下の隊員たちに個別指令を出す事もある。
そして、今回の戦争における指揮系統。
オウカやエレナと同じ基地の隊員、および尖閣諸島での任務を共にした隊員たちは――忍者族であるハツメの指揮下でもある。
だが、情報課 または ハツメから来る指示内容の範疇でなら――自己判断で自由に動ける。
オウカとエレナが所属する東京の基地から、多数の隊員たちが出動する。
その数――実に、数千人。
もちろん、この基地だけではない。
同じく東京の15の基地からも、そして日本全土の260の国衛隊基地からも出動しているのだ。
その総数――実に、20万人以上。
北夕鮮軍との戦いに向かう隊員たちの中には……不安と恐怖に引きつった表情を浮かべる者も、散見される。
無理もない。
これから――国家間の殺し合いが始まるのだから。
いや……既に始まっている。
いきなり、敵が背後から斬りかかってくる……かもしれない。
いきなり、街角からナイフが飛んでくる……かもしれない。
あるいは、自分が敵にそれをしなくてはならない……かもしれない。
隊員たちの中には、それを実感できず、未だフワフワと浮足立った心境の者も、少なくない様子だ。
多数の国衛隊隊員と共に、基地を出るオウカとエレナ。
ARレンズを通した視界には、味方であることを示す緑マーカーが、お互いの頭上に表示されている。
もちろん、多数の国衛隊隊員の頭上にも、緑マーカーが表示されている。
そして、北夕鮮軍の兵が視界内に現れた場合は――敵であることを示す赤マーカーが、敵の頭上に表示される。
オウカとエレナがすべきことは、2つ。
『カンナの愛刀を見つけ出す』
『ヨハンへの復讐』
多数の国衛隊隊員と共に――2人は、行動を開始した。
――――とある地下室。
そこには、”外国人観光客” たちがいる。
その人数は、5人や10人ではない。
数百人はいるだろう。
待機していたのだ。
そして、別の部屋にも数百人が待機していた。
別の階、別の建物、別の都市にも――膨大な人数の ”外国人観光客” が待機していた。
その者達の国籍は、”北夕鮮人” が大多数を占める。
および、一部を ”シーナ人” が占めている様だ。
そして、日ノ国本土を武力侵攻するために、観光客として堂々と日ノ国に入国していた――兵士たちが、地上へと姿を現した。
――時を同じくして、日ノ国本土の各地で大量の軍艦・潜水艦が出現。
海岸から、日ノ国本土へと侵入していく膨大な数の兵士たち。
――時を同じくして、日ノ国本土の空を軍用機が飛ぶ。
空から、膨大な数の兵士たちが、パラシュート降下してくる。
――時を同じくして、日ノ国本土の離島。
沖ノ鳥島・南鳥島・種子島・対馬・青ヶ島・父島・母島・与那国島付近において、領海侵犯をする軍艦が出現。
――――世界最悪 独裁国家・北夕鮮。
その最悪の武力は、すでに日ノ国本土へと上陸を開始していた。

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