戦争が開始された。
北夕鮮軍の最悪の武力が、日ノ国本土への侵攻を実行する。
地下室から、海岸の軍艦・潜水艦から、空を飛ぶ軍用機から……。
大量の兵士たちが次々と、兵士たちが日ノ国へと上陸してくる。
……8の離島付近に出現した軍艦からは、未だ兵士は姿を見せていないようだ。
――対して、日ノ国を護る国衛隊の動向。
全国260の国衛隊基地から、20万人以上の隊員たちが緊急出動。
情報課の指示の元、北夕鮮を迎撃するのだ。
日ノ国と北夕鮮による、この全面戦争。
日ノ国の立場からして、13日前に勃発した尖閣諸島・魚釣島での局地的な戦争と、決定的に違う点。
”殺害許可”
国衛隊隊員は、北夕鮮兵の殺害を―――最初から許可されているのだ
――つまり、北夕鮮兵と遭遇したら、どちらか片方が……
いや、遭遇したと認識しないまま、背後から……
あるいは、凶器を死角から、飛び道具を投擲……
遭遇を認識するかしないかに関わらず、片方が……
【死】
それが、いつ起こるか、わからない。
新兵たちの多くは、恐怖が張り付いた様な表情を浮かべる。
または、自分の内面から顔を出す恐怖に負けまいと抗うあまり、周りへの警戒が疎かになる隊員もいる。
また、恐怖している事実を認める事すらできず……やたら饒舌になる隊員も、少数いるようだ。
――――北夕鮮軍は、要所に向かっている様だ。
情報課からの指示によると、本土に姿を現した直後、密かに用意されていた軍用車に乗り込み――移動を開始。
大別して、5つの要所に猛スピードで向かっている様だ。
・首相官邸(政治の象徴)
・国営放送局(世論誘導の要)
・統合防衛司令部(軍事司令の要)
・電気・水道・ガス設備(エネルギーインフラ)
・港(国際物流の要)
(通信施設は、衛星ネット回線システムSatellite linkにより不要になりつつあるため、狙われない様だ)
これは、国衛隊も想定済みだ。
これらの建物は、軍用車では辿り着けない様、道路に障害物を設置している。
また、軍用機で上空を通過することはできるが、もしパラシュート下降をしたなら……一斉に飛び道具で狙われるので、基本的にしない。
結局、兵士たちは――ある程度離れた所で、それらから降りて、自分の足での移動が必要となるのだ。
(ただし国衛隊は、道路の障害物の内側エリアに、予め軍用車・軍用ヘリを隠してある。その場所は、情報課と一部の上官のみが知る)
北夕鮮軍の動向──の情報。
その情報元は、日本全国に存在する忍者族。
忍者族には、戦争に参加する者もいれば、参加しない者も多数いる。
なぜなら、戦争に参加していない者は――敵を攻撃できない代わりに、敵から攻撃もされないルールだからだ。
だが、監視および情報共有を禁止するルールはない。
そして、戦争への参加資格を持つものが――敵兵への攻撃を実行すればよいのだ。
日ノ国に、数万人いるという忍者族が、監視の目を光らせている。
――地の利は、忍者族に、国衛隊に、日ノ国にある!
――――忍者族・ハツメは、奇妙な違和感を感じていた。
総戦力は、国衛隊が北夕鮮軍を上回る。
なのに、北夕鮮軍の兵たちは、攻め込んできた。
まるで、尖閣諸島・魚釣島での戦いは──
最初から本土侵攻の火種にするつもりだったかの様な……直感。
その火種から、悪意の炎が燃え上がっているかの様な……悪寒。
だが、戦争はもう始まっている。
……成すしかない!
サキョウさんによるテソン殺害を。
日ノ国の勝利を。
――――多数の軍用車が、日ノ国の複数の要所へと向かっている。
侵攻する、北夕鮮の軍用車。
迎撃する、日ノ国の軍用車。
――そして、エネルギーインフラである発電所へと向かう、日ノ国の複数の軍用車。
それぞれの軍用車に数十人の隊員が乗り込み、発電所に急行している。
北夕鮮軍による、インフラ破壊・乗っ取り……ひいては、国の機能の停止を阻止する為に。
それらの軍用車の1つ。
その車内には、オウカとエレナの姿。
――オウカとエレナの武器は、同じだ。
メイン武器は、腰に携えた日ノ国刀。
サブ武器として、手甲に装着した棒手裏剣。
オウカは、祖国の軍で使っていた武器に近いという理由で、これらを選んだ。
必須教練で、忍者刀も習ってはいるが、日ノ国刀が自分に合っている、と判断した。
エレナは、いろんな武器を使いこなすことで、身体操作を極めたいと思っている。
尖閣諸島・魚釣島では、軽く扱いやすい忍者刀だったので、今回は重量がある日ノ国刀を選んだ。
日ノ国の武器を携え、2人は戦いへと赴く。
……車内は、強い緊張感に包まれている。
オウカとエレナの他にも、新米隊員は複数人いるようだ。
そして、新米隊員たちのほとんどは、過度な緊張感で……ガチガチになっている。
身体が震える新米隊員。
目線があちこちに泳ぎ続ける新米隊員。
幾度も、自分の武器の点検を繰り返す新米隊員。
そんな中、オウカは思考していた。
この戦争において、祖国・シーナ国が、北夕鮮に加担している。
――移動手段。
北夕鮮の軍用車・軍用機・軍用艦は――恐らくシーナ国が提供した物も多いハズだ。
――そして、武力。
北夕鮮軍への、シーナ国軍からの戦力貸与。
つまり、北夕鮮の兵士たちの中には――シーナ国の兵士たちもいるだろう。
何百人か?
何千人か?
それはわからないが、相当な数のシーナ国軍の兵士が、この戦争に関わっているだろう。
――シャオルーも。
シャオルー以外の、シーナ国軍の上官達も――
「320メートル先に、走行中の北夕鮮軍の軍用車!
――総員、戦闘準備!」
軍用車の助手席に乗り込んでいる上官が、口を開いた。
隊員たちに、緊張が走る。
新米隊員の中には、びくん、と身体が跳ね上がった者もいる。
車外カメラによる映像が、車内のモニターに映し出されている。
戦争中は、一般車両による車道の走行は、厳しく制限される。
つまり、走っている車両は、ほぼ間違いなく軍用車だ。
――そして、北夕鮮軍の軍用車が、その姿を現した。
ARレンズを通した視界には、敵の軍用車であることを示す、”大きな赤マーカー” が表示されている。
あの中に、北夕鮮軍の兵士たちが多数乗り込んでいるのだろう。
そして、あのような軍用車が、何千台、何万台も、今この瞬間この日ノ国を走っているのだ。
みるみるうちに、敵の軍用車との距離が狭まる。接近していく。
そして、ぴったり、と横につける。
傍から見たら、国衛隊と北夕鮮軍、二台の軍用車が仲良く併走しているようにも見えるだろう。
だが、その実、お互いにタイミングをうかがっている。
頑強なタイヤには、手裏剣の類などはもちろん、刀剣類を使っても、使用不能にはできない。
もちろん、手で投げられる障害物では、止めることなどできない。
ならば、手段は――――タックル。
――だが、しない。
よりスピードを上げて、この車体で道を塞ごうとしているのだろう。
行儀の良いことだ。
だから、付け入られるんだ。この日ノ国は。
だが、国衛隊の軍用車に対して、北夕鮮軍の軍用車は、距離を詰めてくる。
猛スピードで併走しつつも、どんどんと車間距離が縮まる。
「掴まれ!」
上官が叫んだ時には、北夕鮮軍の軍用車が、もう手を伸ばせば触れる距離まで来ていた。
隊員たちは、車内のグリップに手を伸ばす。
次の瞬間、身体が吹っ飛ばされるくらいの激しい衝撃が、オウカを、エレナを、隊員たちを襲った。
北夕鮮軍の軍用車が、国衛隊の軍用車にタックルを仕掛けたのだ。
国衛隊の軍用車が、ぐらり、と左側に大きく傾いた。
運転手は、ハンドル操作で、なんとか持ち直し――浮いていた右側の前輪と後輪が、地面に乱暴に着地した。
その衝撃で、再び車内が振動した。
「この……野郎ォ!」
助手席の上官は、声を荒げた。
そして、運転手に何やら指示を出した。
それを受けて、運転手は――右に大きくハンドルを切った。
上官と運転手は、予想外の攻撃(予想しとけよ)を受けての過度に強い興奮で、冷静に考えられる状態ではない。
単なる敵への同調行動だな、とオウカは思った。
――三度、激しい衝撃が車内にいる隊員たちを襲った。
国衛隊の軍用車が、北夕鮮軍の軍用車にタックルを仕掛けたのだ。
先ほど受けたタックルの衝撃よりも、格段に激しい。
こちらの軍用車が、どこかイカれてしまっても、不思議ではない程の衝撃。
数秒前には、考えもしなかった行動を取ると……適度というものがわからない。やりすぎることもある。
北夕鮮軍の軍用車が、ぐらり、と右側に大きく傾いた。
運転手は、ハンドル操作で、なんとか持ち直す――事は、叶わなかった。
車体は、そのまま右側の地面に吸い込まれる様に、角度を増し……横転した。
――同時に、その車内から、北夕鮮軍の兵士10名程が飛び出してきた。
(敵を示す赤マーカーが表示されている)
臨戦態勢が仕上がっている。
国衛隊は、応戦……することはなかった。
そのまま、発電所に向かって、走り続ける。
後ろを見ると、横転した軍用車と、北夕鮮軍の隊員たちが立ち尽くしている。
罵倒の言葉を吐いている者、地団駄を踏んでいる者、中指を立てている者もいる。
まあ、当然の選択だろう。
あそこでこちらも停車して、応戦した場合……こちらの軍用車が奪われるリスクがある。
それにこちらは、敵兵による要所への侵攻を防ぐ為に、一刻も早く要所に向かわなくてはならない。
また、横転したあの軍用車に乗っていた隊員たちは、要所まで走る羽目になるか、別の軍用車に乗せてもらうしかない。
それまでは、要所への侵攻に加わることはできない。
なので、こちらが時間を潰してまで、相手をする必要もないのだ。
――車内の隊員たちを見渡す。
新米隊員たちのほとんどは、心の底から安堵したような表情だ。
極限まで張りつめた糸が、一気に緩んだのだろう。
ガチガチに緊張していた全身から、一気に力が抜けて、そのままうなだれる者もいる。
これじゃあ、この先とても精神が持たないだろう。
体力は消耗せずとも、精神力をガンガン消耗して、いずれは脳がまともに働かなくなる。
そして、訓練の成果を発揮することなく、殉職してしまうだろう。
まあ、もし、戦う事が100%決定しているならば……
覚悟を決めて、適切な緊張感を維持して、実力を発揮することもできる。
だが、この戦いにおいては、戦うか否かは、その時までわからない。
言い換えれば、いつ幽霊が出てくるかわからないホラー映画の様なものだ。
じわじわと、少しずつ……人間ではない何かが近づいてくる。
去ったと思ったら、後ろから気配が……
振り返っても誰もいない。
……次の瞬間、上から うめき声が……
現れた後よりも――いつ現れるか、現れないのか……わからない状況が、一番恐怖が増幅するのだ。
戦うか?戦わないか?
それが明確にわかれば、覚悟を決める事もできる。
しかし、不明瞭ならば、覚悟を決めるべきかどうか? という段階で悩んでしまう。
覚悟を決めるタイミングが、掴めないのだ。
──なら、どうするか?
命よりも大切な目的の為に生きる。
そんなところか。それしか思いつかない。
……こんなことを、考えても仕方がない。
オウカ達を乗せた軍用車は、速度を上げて発電所方面へと向かう。
――――12分後。
オウカとエレナや隊員たちを乗せた軍用車は、発電所の1.5キロ手前の障害物の設置地点で停車した。
隊員たちは、軍用車から降りて、周りを見渡す。
様々な障害物が設置されている。
タイヤをパンクさせるためのトゲトゲ……大型の ”タイヤキラー” が、道路に大量に敷かれている。
ここからは、車両による走行ではなく、走って目的地を目指すことになる。
そして、情報課から指令が来た。
[発電所を防衛する隊員諸君は、下記ポイントへ急行せよ]
添付されたマップには、味方と敵の位置情報。
自分がいる場所と、味方がいる場所が、”緑シグナル” で表示されている。
”赤シグナル” は、現在進行形で味方が視認している敵を意味する。
グーゴルマップと同じ要領で、スワイプや拡大・縮小ができる。
――それを確認したオウカとエレナは、発電所へ向かって走り出した。
――――ゆるふわ。
その女性の雰囲気は、ゆるく、ふわっとしている。
ゆるいウェーブの茶髪セミロング。
ふわっとした、長いスカート。
年齢は、二十代前半といったところか。
その女は、戦争に参加していない。戦闘への参加資格はない――
……さ~てと。
あの子と、落ち合わなきゃ。
”これ” を渡さなきゃ。
んーと、こっそり送ってもらった情報によると、発電所方面に向かってるわね~。
残念!
私がいるのは統合防衛司令部方面。
あの子がいるとこまで、移動しなきゃ。
今は、一般車両は使えないの。
戦争に参加していない私が、軍用車に乗ることはできない。
(いや強奪すれば乗れるけど、それは ”外国人観光客が、国衛隊隊員複数人を暴行” という犯罪になっちゃうわ。不逮捕されても、不起訴にしてもらえるかしら?
いや、そもそも目立ちすぎちゃう。今回の任務を果たせないぃ)
戦争に参加していないなら、走るしかないわぁ。
顔バレしたくないから、帽子とサングラス。
うふふ。芸能人か指名手配犯みたい。
戦争中に、こんな格好で走ってたら、不審者確定!
いや、走ってる時点で、明らかに不審……いや、明らかに要警戒と判断されるわね。
なら、気にしなくても良いわね。
どんな移動ルートが良いかしら?
……さてと。
あの子は、敵と遭遇して戦いながらだから、フリーパスで行ける私は追いつける!
(職質されてもシカトしちゃうわ)
……あの子に、私が教えたパルクールのスキルは、どれくらい上がってるかしら。
どれくらい強くなってるのかしら、楽しみね♡
もし、日ノ国に感情移入してたりしたら……
――タダじゃあ、おかないわよ。
その女は、自身の移動ルートの確認を完了。
そして――ゆるふわな表情のまま、猛スピードでの移動を開始した。
――――ミョンヒは、統合防衛司令部の方角へと向かう軍用車の中にいた。
同じく、多数の軍用車が統合防衛司令部の方角へ向かっている。
テソン指揮の元、ミョンヒが現場を統率している。
「我々が最優先で狙うのは、統合防衛司令部だ。貸与戦力は、現在は、別の要所へと向かっている。」
ミョンヒの腰には、剣舞で駆使する2本の短刀が、携えられている。
「――機を見計らって、テソンも現場へと加わる。
要所を落とす」
軍用車が向かう先を映す車内モニターに、ある物が映る。
統合防衛司令部へと向かう軍用車を妨害する、障害物が設置されている。
そして、武器を持って配置についている多数の国衛隊隊員たちの姿も。
ミョンヒは、隊員たちに臨戦態勢への移行の指示を出した――
ミョンヒが乗る軍用車は、障害物の数十メートル前に停車した。
ふわっ、と重力を感じさせない足取りで地面へと降り立った金髪ロングヘアの女性――ミョンヒ。
次いで、数十台もの軍用車が ミョンヒの後ろに控えている。
多数の軍用車から、大量の北夕鮮軍の兵士が、殺気立った表情で降りてくる。
「――総員、行動開始!」
ミョンヒが率いる軍団が、号令と共に一斉に走り出した。
国衛隊隊員が、それを迎え撃つ。
――ミョンヒは、歩を進める。
まるで、近所に散歩に出かけるかのような、自然な歩き方で。
だが、近所での散歩とは……明確に違う2点。
1つ。両手に握る――2本の短刀。
2つ。冷静かつ迷いのない――殺意の表情。
――国衛隊隊員たちは、不審に思った。
あまりに、無防備だからだ。
”北夕鮮軍の天才” といわれるミョンヒが、あまりに不用心に……単身で突っ込んでくる。
真っ先に、ミョンヒを取り囲もうとする国衛隊隊員4名は、経験豊富ゆえに……その意味を理解してしまった。
そして、その理解は――正しかった。
ミョンヒは、国衛隊隊員4名に囲まれるカタチとなった。
そして、この場における統率者であるミョンヒを十重二十重に取り囲もうと、多数の国衛隊隊員たちが集まる。
同時に、ミョンヒの元には行かせまいと、北夕鮮兵士たちも応戦する。
真っ先にミョンヒを取り囲んだ国衛隊隊員4名は、間髪入れずに――武器での攻撃を仕掛ける。
日ノ国刀を、忍者刀を、手裏剣を、苦無を――明確な殺意を持ってミョンヒへと向ける。
北夕鮮軍の士気を上げる、というミョンヒの意図を理解しながらも、勝算の薄い戦いを仕掛ける。
”繋いでくれ。日ノ国を護るという、意思を――”
-フアッ-
――ミョンヒが、2本の短刀が、4名の敵が――舞った。

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