I-State -侵略国家- 第16話「弐」

 

北夕鮮史上最高傑作であるテソン。

今回の戦争では、指揮を取りつつ前線に出る。
(兵士たちの士気を高める効果もある)

テソンは、1回の戦争から得る経験値も、常人のそれとは比較にならない。

知恵・知識と組み合わせて、知略を巡らせ、歴戦の老兵すらも超える安定感を感じさせる。

 

テソンは、前線で経験を積んで、いずれは軍を統率する立場になる。

そして、軍事大国……アメルカやルーシャとの戦争。

つまり、シキやアレクセイと闘い、倒すのも、テソンの使命だ。

無論、いずれは……ハオランも。

そして、総統が北夕鮮を覇権国家に導く偉大なる思想──

微力ながら、その一助となる光栄を賜るのだ。

――私、ミョンヒと共に。

 

 

――――北夕鮮軍の士気が、上がっていく。

4名の国衛隊員たちが、舞った。

どさっ、と 地面に倒れ込んだ。

2名が、致命傷。
2名が、死亡。

間近でその様子を見た国衛隊員たちの中には、気後れした表情を浮かべる者も、少なくない。

 

――ミョンヒはその美貌とは裏腹に、猛々しく……吠える!

「今こそ! 長年の過酷な訓練を耐え抜いた、我々の実力を発揮する時だ!」

北夕鮮軍の兵士たちの士気が、更に上がっていく。

「国衛隊の弱者共に――格の違いを、見せてやれ!!」

兵士たちから、雄叫びが上がる!

勇猛か、無謀か。

その勢いに乗って、兵士たちが走り出す。

 

 

――――オウカとエレナは、発電所へと走る。

情報課から指示された配置につき、北夕鮮軍の発電所への侵攻を阻止するのだ。

多種多様の建物に囲まれた複雑な地形。

北夕鮮の兵士がどこから現れても視認・迎撃できるように、国衛隊員がくまなく配置される。

忍者族ハツメの指揮下にある、オウカやエレナと同じ基地の隊員、および尖閣諸島での任務を共にした隊員たちも――

同じく、発電所への侵攻を阻止するために、配置についている。

 

そして、同様のことが、本土各所の要所で展開されている。

大まかな概算で、本土の42都道府県それぞれに要所が約10箇所ずつあるとしたら――総計約420箇所。

約420箇所の要所に、北夕鮮軍が侵攻しているということになる。

日ノ国全土の要所を懸けて。

国衛隊隊員と北朝鮮軍兵士による、全面戦争が開始された――

 

――オウカとエレナに、個別指示が下った。

[敵兵が3名、こちらに向かっている。至急撃破せよ]

と同時、二人は踵を返して再び走り出した。

表示されたマップに、敵の位置がピン止めされている。

 

もし、戦争参加者である味方が、敵を視認したなら、マップに赤シグナルが表示される。
敵の移動もリアルタイムで反映される。

だが、表示しているマップには、赤シグナルは表示されていない。

つまり、3名の敵がいるという情報の源は、味方ではあるが戦争参加者ではない。

……恐らく、戦争に参加していない味方が監視・視認して、それをマップにピン止めして、情報課に送信。

それをもとに、情報課が私たちに送信してきたのだろう。

 

――この3名の内に、ヨハンはいるのか?

ヨハンは、情報課に顔が割れている。

従って、ヨハンを視認した味方(戦争参加者)がいたら、、即座にデータベースと照会される。

情報課および視認された場所を統率している上官には、その情報が即時共有される。

しかし、部下には必要な場合のみ情報が共有される。

つまり、オウカとエレナには、この3名にヨハンが含まれているのかは、わからない。

実際に対峙する、その時までは。

オウカとエレナは、指示された場所へと疾走する。

 

 

――――侍族セツナの元に、2名の男が横たわっている。

セツナが、ものの数秒で倒した北夕鮮の兵士だ。

最期に、総統への謝罪の言葉を発していたが、構わず日ノ国の切っ先で――首を貫いた。

ぷしゃあっ、と赤い液体が流れ出た。

武士の情け……をかけている隙に、こっそり何らかの情報を送信される可能性もある。

そもそも、迎撃すべき敵はコイツ等だけでなく、無数にいる。

私の自己満足の為に、時間を使っている場合ではない。

 

「凄い……セツナちゃん!凄い!」

ペアを組んでいる侍・ユウキが、ぴょんぴょん跳びはねながら、感嘆の声を上げた。

その愛らしい表情たるや、その身振り手振りたるや……セツナよりも随分、女の子らしく見える。

「どうも……」

セツナは、いかにもやる気のない社交辞令を返した。

 

……目の前で敵兵を殺害してんのに、テンション上がってんのは何故?

もっと神妙な面持ちしろよ。

調子が狂うわ。

 

……はあ、単独行動 もしくは 弟とのペアと希望したのに。

うるせーな。この……

ツインテールの、男の娘は。

…………

 

―――弟は、私よりも二歳年下なのに……私よりも、強い。(少しだけ。ほんのちょびっと)

だが、お人好しで――どこか抜けている。

一見するとクールで気難しい雰囲気だが、少し話すと――お人好しっぷりが、バレてしまうのだ。

他者と接する時の身振り手振り。
声のトーン。
会話の内容。

それらから、お人好し臭がプンプンして――――お人好しっぷりが、バレてしまうのだ。

 

無論、他人の言葉は疑ってかかるべきということは、弟も理解している。
(いや、それも危ういかもしれないが)

だが……気がかりがある。

弟は、味方の言葉を──全面的に信じてしまうのだ。

厳密にいうなら、”味方の地位を得た者” の言葉を、カンタンに信用してしまうのだ。

両親の教えを尊重してはいるが、その範囲内において可能な限り積極的に――他人を信じようとする。

他人を信じたがる心情が、デフォルト。

それを理性……つまり、両親の教えに沿って、バランスを取っているのだ。

 

もし、スパイが弟に接触したら?

弟が、お人好しだと知られたら?

とうぜん、利用しようとするだろう。

――だから私が、弟をしっかりと見ててやらないと。

 

 

――――その女性は、恋人の傷を案じていた。

今回の任務のペアであり、恋人である男性の傷を。

腹部を突かれた傷。
右腕を突かれた傷。
右前腕の内側に、武器を投擲された傷。

その傷を見るだけで、自分自身の心だけでなく、身体の同じ部位が痛みを覚える。

できれば、全面戦争開始までもっと期間が空けば、少しでも傷が癒えたかもしれない。

だが、わずか13日後に開始されたのだ。

尖閣諸島・魚釣島での戦いの13日後に。

 

その女性の視線の先には、恋人である男性がいる。

やや垂れ目の青年だ。

その右手には、1本の剣が握られている。

いや、厳密には……

1本の剣に擬態した2本の剣―― ”双剣” が。

 

――猛スピードの走行で揺れる軍用車の中、ただただ恋人の身を案じる、北夕鮮軍の女性。

その女性が、最愛の人が、自分の傷を案じる視線を感じ取る青年。

それだけで、傷の痛みを忘れることができる様な気がする。

「大丈夫だよ、スヨン。
僕は戦える。北夕鮮の未来の為に」

――リュンは、優しく微笑んだ。

 

 

――――オウカとエレナは、3名の敵を迎撃する為、指示された場所へと走る。

発電所の周りは、高層ビルなどは見当たらないが、視界を遮るには十分な高さの建物が並んでいる。

 

……ふと、接近してくる者たちの気配に気づいた。

建物の向こう側、約140メートル先から走ってくる

先程、情報課から迎撃を指示された3名の敵だろう。

オウカとエレナは、お互いに目配せした。

――迎撃態勢に入る。

 

ふおん、と 2人の前進が加速した。

敵3名は、こちらに気付いていないらしく、速度を変えずに走ってくる。

この4階建ての建物を左に曲がったところから、その3名は姿を現す。

――3秒後に!

 

”低く偽った実力” のままで、3名の敵を倒さねばならない。

その制約の元、日ノ国刀に手を伸ばした。

 

――1人の男が、姿を現した。

両目を見開いたその男の頭上に、赤マーカーが表示されているのを確認――と ほぼ同時。

オウカの左腰の鞘から、日ノ国刀が解放された。

-ジャッ-

血と、左前腕が――舞った。

居合術が、男の左前腕を斬り飛ばしたのだ。

「……があああああ!!」

激痛に悶えて倒れ込む男の背後に、同じく赤マーカーを従えた女の姿――

――を確認したエレナは、ふわっ、と跳んだ。

悲鳴を上げて倒れ込む男を跳び越えながら、少し右に跳び自身の攻撃圏内から脱したオウカを確認しながら――居合術を放った。

-ギンッ-

女は、とっさに右腰に携えた剣を、右手で鞘ごと上に持ち上げ――ギリギリで、エレナの斬撃を防いだ。

どうやらサウスポーらしく、左手を剣の柄へと伸ばす。

――より早く、エレナの右の横蹴りが女の腹部に到達していた。

-ドボッ-

女は、大きな吐息を立てたかと思うと、すとーんと、地面に倒れ込み、色気もクソもない声を上げた。

「……ゲハああぁぁぁッッ!」

のたうち回る女を尻目に、オウカとエレナは、3人目の敵に照準を定めた。

同時に、最短距離で間合いを詰めていく。

その敵は――15歳ほどの、少年だった。

 

接近してくる二名の少女を見据え、その少年が浮かべた表情は……

”あっ……ヤッベ”

-ドッ- -ズンッ-

オウカの左拳が、顔面に。
エレナの左拳が、腹部に。

2つの左拳が、少年の身体にめり込んだ。

少年は、自身の無力を痛感する様な表情を浮かべて……力なく倒れていく。

”あーあ、俺も……テソン君みたいに なれたらなぁ”

少年は、そのまま地面に叩きつけられ、気絶した。

 

なおも続く、左前腕を斬り飛ばされた男と、腹部に横蹴りを叩き込まれた女による……悲鳴の重奏。

オウカとエレナは、4人目の敵がいない事を確認。

――先刻から背後にいる者に、視線を移した。

視線の先に立っている者は、緑マーカーを従えている。

「……おつかれ様です×2」

オウカとエレナが挨拶をした先には、忍者族の一員と思われる男が立っている。

虚ろな目。
感情がすっぽり抜け落ちた様な、不気味な表情。
中肉中背。
武器の類は持っていない……様に見える。

「殺すな。生け捕りにする」

抑揚のない声。

 

-カチャッ-

その音の発信源に、オウカとエレナと忍者族の男は同時に視線を移した。

左前腕を失った男が、倒れたまま右手に短刀を握っている。

これ以上ないくらいに、荒い鼻息を放っている。

そして、目を血走らせながら……自分の喉元に、短刀の切っ先を当てた。

「総統……申し訳ございません」

ずぶっ、と男の喉元に、短刀の切っ先が食い込んだ。

大量の赤い血が噴き出すと共に、男の身体は びくんびくん、と痙攣する。

やがて くたっ、と脱力した。

 

――忍者族の一員と思われる虚ろな目をした男は、自決した男に興味なさげに……残り2名の敵兵に拘束具を付けていく。
(敵兵に拘束具を付けることも、戦闘行為に含まれる)

先ほどまで、女として積み上げた何かを捨てんばかりの悲鳴を上げていた女は……いつしか静かになっていた。

そして、女の顔面は、自身の無力を憂う表情から――恐怖に引きつった表情に変わっていく。

無論、捕虜への拷問は禁じられている。

……だが、捕虜が拷問されない保証など無い。

――死人に口なし、なのだから。

 

そして、女は……軍用車で移送されていった。

恐らく、どこかの地下室にでも運ばれていくのだろう。

 

――それを見送った、オウカとエレナ。

”低く偽った実力”

その水準も、少しずつ、不自然でない様に上げている。

この調子で武功を挙げていけば、いずれは ”国衛隊の将校” になれるだろう。

オウカとエレナは、情報課から指示された場所へ向けて──再び走り出した。

 

 

――――とある二か所に向けて、軍用車が次々と走り出した。

統合防衛司令庁、首相官邸、国営放送局、電気・水道・ガス設備に兵士を運んだはずの軍用車。

それらが、とある二か所に向けて走り出したのだ。

そして、空を飛ぶ軍用機も同じく、その二か所に向けて進行している。

その二か所とは、国際物流の要――東京港と名古屋港。

 

つまり、北朝鮮の軍用車・軍用機にもう兵士たちは乗っていない……と思わせて、まだ兵士たちが乗っていたのか?

この2つの港に向けて、敵の戦力が二極集中しているのか?

即ち、北夕鮮軍の狙いは――

 

 

――――国衛隊・情報課。

戦時指令の要。

その構成員の一人が、どこか芝居がかった口調で声を荒げた。

「……なんということだ。
北夕鮮軍の狙いは、日ノ国の国際物流を完全に支配すること。

日ノ国の全国民を、兵糧攻めにすること。
日ノ国の全国民を、人質にすること。

――日ノ国の全国民を、戦争ルールに抵触せずに……攻撃する事なのか!」

その声を発した口は、これ見よがしに横一文字に結ばれている。

 

その口元を、右手が覆い隠した。

歪んだ笑みを、覆い隠した。

 

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