北夕鮮史上最高傑作であるテソン。
今回の戦争では、指揮を取りつつ前線に出る。
(兵士たちの士気を高める効果もある)
テソンは、1回の戦争から得る経験値も、常人のそれとは比較にならない。
知恵・知識と組み合わせて、知略を巡らせ、歴戦の老兵すらも超える安定感を感じさせる。
テソンは、前線で経験を積んで、いずれは軍を統率する立場になる。
そして、軍事大国……アメルカやルーシャとの戦争。
つまり、シキやアレクセイと闘い、倒すのも、テソンの使命だ。
無論、いずれは……ハオランも。
そして、総統が北夕鮮を覇権国家に導く偉大なる思想──
微力ながら、その一助となる光栄を賜るのだ。
――私、ミョンヒと共に。
――――北夕鮮軍の士気が、上がっていく。
4名の国衛隊員たちが、舞った。
どさっ、と 地面に倒れ込んだ。
2名が、致命傷。
2名が、死亡。
間近でその様子を見た国衛隊員たちの中には、気後れした表情を浮かべる者も、少なくない。
――ミョンヒはその美貌とは裏腹に、猛々しく……吠える!
「今こそ! 長年の過酷な訓練を耐え抜いた、我々の実力を発揮する時だ!」
北夕鮮軍の兵士たちの士気が、更に上がっていく。
「国衛隊の弱者共に――格の違いを、見せてやれ!!」
兵士たちから、雄叫びが上がる!
勇猛か、無謀か。
その勢いに乗って、兵士たちが走り出す。
――――オウカとエレナは、発電所へと走る。
情報課から指示された配置につき、北夕鮮軍の発電所への侵攻を阻止するのだ。
多種多様の建物に囲まれた複雑な地形。
北夕鮮の兵士がどこから現れても視認・迎撃できるように、国衛隊員がくまなく配置される。
忍者族ハツメの指揮下にある、オウカやエレナと同じ基地の隊員、および尖閣諸島での任務を共にした隊員たちも――
同じく、発電所への侵攻を阻止するために、配置についている。
そして、同様のことが、本土各所の要所で展開されている。
大まかな概算で、本土の42都道府県それぞれに要所が約10箇所ずつあるとしたら――総計約420箇所。
約420箇所の要所に、北夕鮮軍が侵攻しているということになる。
日ノ国全土の要所を懸けて。
国衛隊隊員と北朝鮮軍兵士による、全面戦争が開始された――
――オウカとエレナに、個別指示が下った。
[敵兵が3名、こちらに向かっている。至急撃破せよ]
と同時、二人は踵を返して再び走り出した。
表示されたマップに、敵の位置がピン止めされている。
もし、戦争参加者である味方が、敵を視認したなら、マップに赤シグナルが表示される。
敵の移動もリアルタイムで反映される。
だが、表示しているマップには、赤シグナルは表示されていない。
つまり、3名の敵がいるという情報の源は、味方ではあるが戦争参加者ではない。
……恐らく、戦争に参加していない味方が監視・視認して、それをマップにピン止めして、情報課に送信。
それをもとに、情報課が私たちに送信してきたのだろう。
――この3名の内に、ヨハンはいるのか?
ヨハンは、情報課に顔が割れている。
従って、ヨハンを視認した味方(戦争参加者)がいたら、、即座にデータベースと照会される。
情報課および視認された場所を統率している上官には、その情報が即時共有される。
しかし、部下には必要な場合のみ情報が共有される。
つまり、オウカとエレナには、この3名にヨハンが含まれているのかは、わからない。
実際に対峙する、その時までは。
オウカとエレナは、指示された場所へと疾走する。
――――侍族セツナの元に、2名の男が横たわっている。
セツナが、ものの数秒で倒した北夕鮮の兵士だ。
最期に、総統への謝罪の言葉を発していたが、構わず日ノ国の切っ先で――首を貫いた。
ぷしゃあっ、と赤い液体が流れ出た。
武士の情け……をかけている隙に、こっそり何らかの情報を送信される可能性もある。
そもそも、迎撃すべき敵はコイツ等だけでなく、無数にいる。
私の自己満足の為に、時間を使っている場合ではない。
「凄い……セツナちゃん!凄い!」
ペアを組んでいる侍・ユウキが、ぴょんぴょん跳びはねながら、感嘆の声を上げた。
その愛らしい表情たるや、その身振り手振りたるや……セツナよりも随分、女の子らしく見える。
「どうも……」
セツナは、いかにもやる気のない社交辞令を返した。
……目の前で敵兵を殺害してんのに、テンション上がってんのは何故?
もっと神妙な面持ちしろよ。
調子が狂うわ。
……はあ、単独行動 もしくは 弟とのペアと希望したのに。
うるせーな。この……
ツインテールの、男の娘は。
…………
―――弟は、私よりも二歳年下なのに……私よりも、強い。(少しだけ。ほんのちょびっと)
だが、お人好しで――どこか抜けている。
一見するとクールで気難しい雰囲気だが、少し話すと――お人好しっぷりが、バレてしまうのだ。
他者と接する時の身振り手振り。
声のトーン。
会話の内容。
それらから、お人好し臭がプンプンして――――お人好しっぷりが、バレてしまうのだ。
無論、他人の言葉は疑ってかかるべきということは、弟も理解している。
(いや、それも危ういかもしれないが)
だが……気がかりがある。
弟は、味方の言葉を──全面的に信じてしまうのだ。
厳密にいうなら、”味方の地位を得た者” の言葉を、カンタンに信用してしまうのだ。
両親の教えを尊重してはいるが、その範囲内において可能な限り積極的に――他人を信じようとする。
他人を信じたがる心情が、デフォルト。
それを理性……つまり、両親の教えに沿って、バランスを取っているのだ。
もし、スパイが弟に接触したら?
弟が、お人好しだと知られたら?
とうぜん、利用しようとするだろう。
――だから私が、弟をしっかりと見ててやらないと。
――――その女性は、恋人の傷を案じていた。
今回の任務のペアであり、恋人である男性の傷を。
腹部を突かれた傷。
右腕を突かれた傷。
右前腕の内側に、武器を投擲された傷。
その傷を見るだけで、自分自身の心だけでなく、身体の同じ部位が痛みを覚える。
できれば、全面戦争開始までもっと期間が空けば、少しでも傷が癒えたかもしれない。
だが、わずか13日後に開始されたのだ。
尖閣諸島・魚釣島での戦いの13日後に。
その女性の視線の先には、恋人である男性がいる。
やや垂れ目の青年だ。
その右手には、1本の剣が握られている。
いや、厳密には……
1本の剣に擬態した2本の剣―― ”双剣” が。
――猛スピードの走行で揺れる軍用車の中、ただただ恋人の身を案じる、北夕鮮軍の女性。
その女性が、最愛の人が、自分の傷を案じる視線を感じ取る青年。
それだけで、傷の痛みを忘れることができる様な気がする。
「大丈夫だよ、スヨン。
僕は戦える。北夕鮮の未来の為に」
――リュンは、優しく微笑んだ。
――――オウカとエレナは、3名の敵を迎撃する為、指示された場所へと走る。
発電所の周りは、高層ビルなどは見当たらないが、視界を遮るには十分な高さの建物が並んでいる。
……ふと、接近してくる者たちの気配に気づいた。
建物の向こう側、約140メートル先から走ってくる
先程、情報課から迎撃を指示された3名の敵だろう。
オウカとエレナは、お互いに目配せした。
――迎撃態勢に入る。
ふおん、と 2人の前進が加速した。
敵3名は、こちらに気付いていないらしく、速度を変えずに走ってくる。
この4階建ての建物を左に曲がったところから、その3名は姿を現す。
――3秒後に!
”低く偽った実力” のままで、3名の敵を倒さねばならない。
その制約の元、日ノ国刀に手を伸ばした。
――1人の男が、姿を現した。
両目を見開いたその男の頭上に、赤マーカーが表示されているのを確認――と ほぼ同時。
オウカの左腰の鞘から、日ノ国刀が解放された。
-ジャッ-
血と、左前腕が――舞った。
居合術が、男の左前腕を斬り飛ばしたのだ。
「……があああああ!!」
激痛に悶えて倒れ込む男の背後に、同じく赤マーカーを従えた女の姿――
――を確認したエレナは、ふわっ、と跳んだ。
悲鳴を上げて倒れ込む男を跳び越えながら、少し右に跳び自身の攻撃圏内から脱したオウカを確認しながら――居合術を放った。
-ギンッ-
女は、とっさに右腰に携えた剣を、右手で鞘ごと上に持ち上げ――ギリギリで、エレナの斬撃を防いだ。
どうやらサウスポーらしく、左手を剣の柄へと伸ばす。
――より早く、エレナの右の横蹴りが女の腹部に到達していた。
-ドボッ-
女は、大きな吐息を立てたかと思うと、すとーんと、地面に倒れ込み、色気もクソもない声を上げた。
「……ゲハああぁぁぁッッ!」
のたうち回る女を尻目に、オウカとエレナは、3人目の敵に照準を定めた。
同時に、最短距離で間合いを詰めていく。
その敵は――15歳ほどの、少年だった。
接近してくる二名の少女を見据え、その少年が浮かべた表情は……
”あっ……ヤッベ”
-ドッ- -ズンッ-
オウカの左拳が、顔面に。
エレナの左拳が、腹部に。
2つの左拳が、少年の身体にめり込んだ。
少年は、自身の無力を痛感する様な表情を浮かべて……力なく倒れていく。
”あーあ、俺も……テソン君みたいに なれたらなぁ”
少年は、そのまま地面に叩きつけられ、気絶した。
なおも続く、左前腕を斬り飛ばされた男と、腹部に横蹴りを叩き込まれた女による……悲鳴の重奏。
オウカとエレナは、4人目の敵がいない事を確認。
――先刻から背後にいる者に、視線を移した。
視線の先に立っている者は、緑マーカーを従えている。
「……おつかれ様です×2」
オウカとエレナが挨拶をした先には、忍者族の一員と思われる男が立っている。
虚ろな目。
感情がすっぽり抜け落ちた様な、不気味な表情。
中肉中背。
武器の類は持っていない……様に見える。
「殺すな。生け捕りにする」
抑揚のない声。
-カチャッ-
その音の発信源に、オウカとエレナと忍者族の男は同時に視線を移した。
左前腕を失った男が、倒れたまま右手に短刀を握っている。
これ以上ないくらいに、荒い鼻息を放っている。
そして、目を血走らせながら……自分の喉元に、短刀の切っ先を当てた。
「総統……申し訳ございません」
ずぶっ、と男の喉元に、短刀の切っ先が食い込んだ。
大量の赤い血が噴き出すと共に、男の身体は びくんびくん、と痙攣する。
やがて くたっ、と脱力した。
――忍者族の一員と思われる虚ろな目をした男は、自決した男に興味なさげに……残り2名の敵兵に拘束具を付けていく。
(敵兵に拘束具を付けることも、戦闘行為に含まれる)
先ほどまで、女として積み上げた何かを捨てんばかりの悲鳴を上げていた女は……いつしか静かになっていた。
そして、女の顔面は、自身の無力を憂う表情から――恐怖に引きつった表情に変わっていく。
無論、捕虜への拷問は禁じられている。
……だが、捕虜が拷問されない保証など無い。
――死人に口なし、なのだから。
そして、女は……軍用車で移送されていった。
恐らく、どこかの地下室にでも運ばれていくのだろう。
――それを見送った、オウカとエレナ。
”低く偽った実力”
その水準も、少しずつ、不自然でない様に上げている。
この調子で武功を挙げていけば、いずれは ”国衛隊の将校” になれるだろう。
オウカとエレナは、情報課から指示された場所へ向けて──再び走り出した。
――――とある二か所に向けて、軍用車が次々と走り出した。
統合防衛司令庁、首相官邸、国営放送局、電気・水道・ガス設備に兵士を運んだはずの軍用車。
それらが、とある二か所に向けて走り出したのだ。
そして、空を飛ぶ軍用機も同じく、その二か所に向けて進行している。
その二か所とは、国際物流の要――東京港と名古屋港。
つまり、北朝鮮の軍用車・軍用機にもう兵士たちは乗っていない……と思わせて、まだ兵士たちが乗っていたのか?
この2つの港に向けて、敵の戦力が二極集中しているのか?
即ち、北夕鮮軍の狙いは――
――――国衛隊・情報課。
戦時指令の要。
その構成員の一人が、どこか芝居がかった口調で声を荒げた。
「……なんということだ。
北夕鮮軍の狙いは、日ノ国の国際物流を完全に支配すること。
日ノ国の全国民を、兵糧攻めにすること。
日ノ国の全国民を、人質にすること。
――日ノ国の全国民を、戦争ルールに抵触せずに……攻撃する事なのか!」
その声を発した口は、これ見よがしに横一文字に結ばれている。
その口元を、右手が覆い隠した。
歪んだ笑みを、覆い隠した。

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